傷痕と記憶  2
















俺に弾が当たるかよッ───




ギラギラしていたあの頃………






『佐助さん!俺もついて行くぜ?』

『大事な仕事なんだぞ?………まぁ、駄々こねないならいいよ』

『ガキ扱いすんなって!』

『ははっ悪い!あとな、客の前では俺のこと、頭か若頭って呼べよ』

『何で?佐助さんは佐助さんじゃん』

『………駄々こねるなら置いてく!』

『分かったよ!』






無邪気に笑っていたのは、もう15年も前の事………




一介の構成員でしかない政宗は佐助に気に入られていたので、何かと側にいた。

幹部達の中でも、佐助に付けておけば政宗は無茶をしないだろう……という暗黙の了解さえあるくらいに、政宗は手に余る猪だったのだ。






その日も、他の組へ行く事に同行を許してくれた。





だが、その日が人生を大きく変える事になった…………






『ネクタイちゃんと締めなよ………若頭』

『ぉ………ちゃんと言い付け守れるじゃん』

『政宗が素直だと新妻みてぇで可愛いな!』

『馬鹿にすんなよ!』

『はははっ』




他の付き人達と佐助は笑った。


何も変わらない日常の風景。


それが一転………









『何だ──────!?』

『死ねぇ!猿飛ッ!!』

『おぃ!頭を守れっ!!』

『佐助さんッ危な────!!』

『ま…………政宗ぇ─────ッ!!』






三発の銃声が響いた…………





命を取りに来た刺客。

佐助の盾となり腹を撃たれた。




『う…………ぁ………』




衝撃が強く膝から崩れ堕ちる………





『テメェ………ぶっ殺すッ!!』

『さ………すけさん………だめ………だ………』

『頭ぁ────!!』






霞む視界に映る佐助の背中。

手を伸ばしても、声も、届かない。







パァァ……………ン─────




乾いた銃声が一つ…………




遠ざかる意識の中、

叫ぶ誰か。

駆け寄ってくる誰か。

名を呼ぶ誰か。



痛みのせいではない。



涙が頬を伝った……………















「ハッ────………ハァ………ハァ………夢………」




政宗は昔の夢を見て飛び起きた。




(最近………あの頃の夢ばかり見るな…………)




寝汗が酷く不快なので洗面所へ向かった。


Tシャツを脱衣カゴに放ってから顔を洗う。



鏡には、あの頃のような若さを感じない姿が映る………



腹にはあの時の傷痕。

背中には竜の刺青。




変わったのは年齢だけ?


何年も掛けて堅気になろうと努力してきたものが、

佐助が目の前に現れたことで脆く崩れていった気がした。





「俺は…………逃げたんだ………今更戻れるかよ」




あの笑顔の男の下から…………─────
















『オヤジ……………嘘だろ………』

『いや…………これが現実だ』





病院のベッドで目が覚め、佐助が刑務所に入ったと告げられた。



正当防衛など適応されるわけでもなく、殺人犯として連れて行かれたという。




『俺のせいで…………』




頭が真っ白に。

そして、心が真っ暗に。








『オヤジ………いや、組長…………────』







撃たれた恐怖ではない。

守りたいものが壊れる恐怖。


大切な人の手を汚した罪悪感。

支えを失った絶望感…………





何も畏れることなく突っ走っていた政宗が初めて抱いた感情。



若さ故にその感情に耐えられず、政宗は組を去ったのだ───









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