太陽と月の距離
初恋
「おはよぉ……って旦那スゴイ顔してるけど大丈夫!?」
「うむ………」
いつもなら規則正しく起きてきて、朝っぱらからも暑苦しい同居人の暗い顔に佐助は驚いた。
「眠れなかったのだ……」
「嘘!?布団に入れば安眠出来る旦那が!」
ボーッとしながら席に座った幸村を気にしながら朝食の用意をした。
「売人の逮捕に気が高ぶったのかな?」
「う、うむ………」
幸村は甘いカフェオレを飲みながら、頭から離れなかった昨夜の情景を思い浮かべた。
スラリとした体躯。
さらさらと揺れる鷲色の髪。
透き通るような白い肌。
鋭い眼差し。
けれど柔らかく妖艶な笑み。
細い指先………
細部までもが鮮明に記憶されていた。
「ハァ………」
「旦那が溜め息なんて怖いなぁ〜………今日は取り調べでしょ?大丈夫?」
「うむ………」
手元にある手帳に書かれた携帯番号を眺めていたら眠りにつくことが出来なかったのだ。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動。
時折締め付けられるような胸の痛み。
そんな感情の意味を幸村はまだ知らなかった。
─────
「ハァ………」
「お前ってホントに取り調べ苦手だよなぁ〜」
「慶次殿………」
「そんな煮詰まった顔して〜!気分転換に今晩合コンに行くか?」
「そっ某はそのような集まりには行かぬ!」
慶次は、休憩時間に机に倒れ込む幸村を励ましにきた。
「何でよ〜?いいもんなのになぁ〜」
「破廉恥でござるよ!」
「へぇ……別に、ご飯食べておしゃべりするだけなのに……破廉恥って思うのはお前にやましい気持ちがあるからじゃないか?」
「そ、そんなことは微塵もない!!」
赤くなって反論する幸村を苛めたくなって慶次はニヤリと笑った。
「誤解してないか〜?普通に楽しいもんだぜ」
「某は……見ず知らずの女性とどう接していいものか分からぬ……」
「普通でいいんだって〜」
女っ気のない幸村に何とか恋をさせたいと思っている慶次は誘いたかったのだ。
「まずは出会いの場が大事だろ?それから気になる子がいたら連絡先聞いて、それからご飯に誘ったりして仲良くなってさぁ」
幸村は首筋がチリッとした。
「ごうこんではないが、は……初めて会った男に誘われて不審には思わないのであろうか?」
幸村は慶次の話とダブっているのだ。
「………不審になんか思わないさ」
「何故……」
「連絡先を教えた時点でその子もこちらが気になるからさ」
慶次は幸村が食い付いて来たことに驚いたが、嬉しそうに答えていた。
「連絡先を教えてくれるのは社交辞令かもしれぬから、連絡はせぬ方が……」
「違う……相手は連絡を待っているんだ」
「……しても良いのか……?」
「そうだ」
慶次は肯定だけを並べた。
「本当に………?」
いつもなら、『女』という単語にさえ破廉恥!と叫びそうな男が真剣に眼差しを向けるので、慶次は仮定してみた。
「お前………恋をしているのか?」
「恋………」
赤くなり叫ぶかと思ったが、幸村は落ち着いていた。
「某は………恋という感情は知らない………」
「あぁ〜……初恋もまだなら分からないよなぁ」
「しかし……もし、この感情が恋だというのなら、とても苦しい」
幸村は胸に手を当てて俯いた。
「そうだな……恋は甘く切なく温かく幸せなもんさ」
「ふむ………」
「連絡してみろよ……きっと胸の苦しみが癒えるぜ?」
慶次は幸村の初恋を喜ばしく思った。
「分かった……連絡してみる」
慶次と話をして気分が晴れたのか、背中を押された幸村は笑顔になった。
「さぁて、仕事頑張りますか〜」
「うむ!」
×××××××××××××××
オマケ
「うぉぉおー!」
「真田うるさいぞ!!騒音は悪だ!」
「すみませぬ!浅井部長ぉ!」
「だから喧しい!!」
気が晴れた幸村は、徹夜明けのナチュラルハイテンションでいつも以上に騒がしかった。
「嬉しくて聞きそびれちまったが……あの幸村を落とす相手はどんな子なんだろうな?」
慶次は幸村と上司のやり取りを眺めながら微笑んだ。
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