太陽と月の距離
一線











「何食う?」

「ん〜……からあげが食べたいです!」

「じゃあ定食屋だな」




幸村は政宗に会えたことで浮かれて満面の笑みだった。


その笑顔に釣られて政宗も微笑んだ。




「そういえば………後ろからでしたが某だとすぐに気付きましたか?」

「………」




信号待ちで歩が止まり、幸村は体ごと政宗の方を向いた。




「えっ!」



政宗が顔に向けて手を伸ばしてきたので、思わず体が強張ってしまった。





「……この茶色の尻尾で分かったよ」

「ぁ………」

「へぇ……意外に柔らかい髪だな……」




幸村は長い後ろ髪を掴む細い指を見つめた。



「俺の髪の方が堅いかもな……」

「そ……そうなんですか…?」



幸村の心臓は踊ってしまった。

堅さを確かめるのを口実に、初めて政宗に触れるチャンスが訪れたから……




手を伸ばそうとしたら、政宗はスッと歩き出してしまった。




「青だぜ?」

「あ、はっはい!」



(某の……邪な考えは見透かされておるのかもな)



幸村はやり場を失った手で頭を掻いて政宗の後を追った。



「なぁ」

「はい?」

「そこだけ長いのに意味はあるのか?」

「………笑いませぬか?」

「変な理由だったら分からねぇよ?」



幸村は政宗の横に並び、少し考えてから口を開いた。




「………某が幼き頃から通っていた剣道場の師範が警察官で………その方が警視総監になられ、都内の犯罪が減ることを願って伸ばしているのです」

「へぇ……願掛けは自分自身じゃなくて良かったのか?」

「そんな大それたこと某は出来ませぬよ!………ただ……同じ職に就き、少しでもお役に立とうと思っただけです……」




尊敬している人物を思い浮かべる幸村は、自然と口元が緩んだ。




「いいんじゃねぇの?俺はお前の古臭くて真っ直ぐなトコ好きだぜ」

「えっ!?そっ……す………あっ、ありがとうございますッ」




『某も好きです』


と言いそうになったが、辛うじて残っていた理性によって止まった。




「ククッ………おら、店入るぜ」

「はっはい!」




自分が抱く感情とは温度差がある言葉だったのに、

『好き』という単語だけで体温が一気に上がり、体が奮えた。













───────

「今日もまたご馳走になってしまって……」

「年下の特権だ……甘えとけよ」

「………あ……今度ッ」




食事代をなかなか受け取って貰えずしょんぼりしていた幸村だったが、何かを思い付き顔を上げた。




「今度佐助の店に行きましょう!」

「佐助………Ah〜幼なじみだっけ?」

「はい!同じ道場に通っていた友です」

「Okey……じゃあ都合のいい日を連絡してこいよ」

「はい!」

「お前の大好きなオムライスでも食べさせてもらうかな」

「はいッ……!」



幸村は政宗の笑みが嬉しくて仕方なかった。




「今は仕事大変か?」

「そうですね……先日この辺りで起きた暴行事件も麻薬絡みで」

「Stop」

「え?」





来た道を戻っている途中、いつも話を聞いてくれる政宗が会話を遮った。




「………仕事の内容は話さなくていい」

「あ………すみませぬ」

「いつ当直でいつ休み……暇か忙しいか……その程度にしようぜ」

「はい………」

「俺は話す気ねぇし、お前からはそんなことより違った話が聞きてぇよ」

「は……い………」

「そんな顔すんな………」



注意をされて、怒られたような申し訳ないような気持ちになり、幸村は切なくなっていた。




「………互いの仕事上明るい話題はねぇ……俺はそういうのを抜きにお前と向き合っていたいんだ」

「はい………」





信号は赤




いつもは意地悪そうに、楽しそうに、嬉しそうに笑ってばかりの政宗が、立ち止まり真剣な眼差しを向けていた。




「政宗殿………」

「………」

「気を付けますから………政宗殿もそんな顔をしないで下され」

「………あったけぇ手だな……」

「ッ!!」




幸村は無意識に政宗の頬を撫でていて、政宗の冷たい指先がその手に添えられて我に返ったのだ。




「すっ……すみませぬ!!」

「フッ……青だぜ」



慌てて引っ込めた手だったが、信号が青に変わって歩き出した政宗の背中を確認してから、その手を眺めた。




(触れてしまった………!)



顔がにやけるのを必死に堪える幸村だった。


















×××××××××××××××

オマケ


「幸村〜!」

「慶次殿………遅いではござらんか………」

「悪い悪い!俺も知ってる子に会ってさぁ〜……ってどうした?ボーッとしてるぜ?」

「某は………」

「手に何かあるのか?」

「───ッ!!」




自分の掌を見つめる幸村に疑問を抱いた慶次は、幸村の手を握った。




「ぬぉぉお!!」

「急に何だよ!?」

「暫くは洗うまいと決めていたのに………無念………」

「えぇ!?どうした!幸村ぁ!?」




ショックのあまり膝から崩れた幸村だった。

[*前へ][次へ#]

15/26ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!