捧げ物
2周年記念
桜の咲く頃には…………




















奥州の春はまだ遠い


芽吹きの気配を感じても、

時折吹く風はまだ冬の存在を帯びていた。



すぐそこまで春は来ているというのに



届かない─────



捉えようとしても、この手をするりと擦り抜けてしまう『あいつ』のようだ………





「そんな薄着では風邪を召されますよ」

「─────ッ」



肩に羽織を掛けらるまで、背後に立つ存在に気付かないほどに政宗は油断していた。



「小十郎…………」

「空を見上げてどうかされましたか?」

「……………いや………」

「………何かを待っているみたいですね」

「………………」




待つ…………?



小十郎の一言は政宗の胸にとん、と響いた。





『春になったら会いに来るね』




今にも雪が降り出しそうな鼠色の空の下、

紅葉を思わせる鮮やかな髪を揺らして、春の日差しのようにやわらかな微笑みを残していった『あいつ』

あの時頬から離れた冷たい指先の感覚は、長い月日を経ても忘れることがなかった。






「………待つとしたら………春………か」

「………もうすぐ長い冬も終わりますから、後少し辛抱して下さいね」



庭から動こうとしない政宗に諦め、小十郎は一人部屋へと上がって行った。



「春………か………」



左眼に写る世界が白銀だった頃には抱かなかった感情………


春がそこまで来ていると気付いてしまったら、募る想い………


心の大部分を占める『あいつ』の存在………



鷲色の髪を揺らす冷たい風が、政宗の胸を更に刺激するのだった。





「さみぃ………────ッ!?」




政宗は羽織の裾を掴み、暖を取り込もうとした瞬間、足元から身体がふわりと浮いた。




「いつまでもそうしてたら風邪引いちゃうよ?」

「な!?お……前…………ッ!」




冬の始まりに別れた時と変わらない笑顔が、
今、目の前にある事実に激しく動揺した。




「ちょ、お前………いつ!」

「まぁまぁ、とりあえず寒いから中入ろうよ」



抱きかかえられたまま部屋へと運ばれてしまう。



「お前、何……の用だよ………」

「ん?」



政宗は草履をぽとりと落とされてから、縁側へと下ろされた。



「何って?そりゃいつもの用事だよ」



そう言いながら懐から文を取り出し、一段高い視線の政宗を見上げて手渡した。



「…………また真田からか……」



飽きるくらいに見慣れた表書きに、政宗は大きく息を吐き出して落ち着きを取り戻した。




「またとか言わないでよ〜………あ、そっと開けてね」

「何?…………ぁ────」



折り畳まれた文を広げると、気のせいとも思えるくらいの僅かな甘い香りがふわりと舞い上がる。





「桜……………」

「うん………押し花になる前に届けたくて飛ばして来たんだ」

「………信州はもう咲いてるんだな………」

「見頃だよ………竜の旦那にもお花見して欲しくてさ」



政宗は一足早く訪れた信州の春を見つめたままだった。



「…………奥州の春はまだみたいだね」



見渡す限りは色のない景色。




「いや………そんなことねぇよ…………」

「ん?………──────ッ」






片手いっぱいの淡い桃色の花びら



逢いたいと願ってしまった人物





「もう春はここにあるだろう…………」




縁側に立つ政宗は、庭に向けられた顔を自分に向ける。

少し驚いた表情をしていたがお構いなしに身を屈めて唇を寄せた………





「………待ってたぜ………佐助」




両手を頬に添えてもう一度口付けをする。


佐助は寄せられた唇に応えながら政宗の腰を引き、抱き上げて部屋の奥へと入って行った。




「…………冬はもう終わったよ」







縁側に残された文と桜の花びらは、


春を連れてきた風に揺られていた───────

















×××××××××××××××
『七転び八起き』2周年記念小説。

うちのサイトで扱う佐政
基本は甘い。
でも報われない部分がある。
政宗は甘えたりしない。
でも誘い上手。
佐助は飄々。
たまには本能に忠実。

そんなのを簡単にまとめた一品です。

こんな彼らを動かす管理人を、今後もよろしくお願いします。



禅屋 凛 10.04.18

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あきゅろす。
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