捧げ物
11万打☆銀冬様へ
戦国・竜+忍

















虫は秋の訪れを唄う。

どこまでも高い天には白く輝く月。

ゆらゆらと木々の葉を揺らす風は心地好く頬を撫でる。


「いい夜だ………」



奥州の王は縁側で盃を傾けて、つい独り言を洩らしてしまう程に酒の進む月夜だった。



「…………」



不意に政宗の表情が曇った。





ガキィィィ────ン………



金属のぶつかり合う音。
そして、遅れて陶器が割れる高い音がした。



「Ha!人が風情を味わってるっていうのに、随分と無粋じゃねぇか!」



政宗は刀を抜き、突然の攻撃を防いだのだ。



「こんな月明かりの中………てめぇ……どこの忍だ」



一撃を交わし、暗殺者は庭へと距離をとり、政宗は鞘を捨ててゆっくりと刀を構えた。



「命狙いに来てる忍が名乗るわけないじゃん………」

「違いねぇ………」



政宗は目を細めて忍の姿を確認する。

襟元の黒い布で顔半分は隠れていて、尚且つ月を背負うているので表情はよく分からないが、
さらさらと風に揺れる髪は、青白い光に照らされて、忍には不釣り合いな位に鮮やかに輝いている。



(朱?………橙………ッ!?)




髪色に気を取られたほんの一瞬に、政宗は懐に飛び込まれてしまった。



「チィ………ッ!」



咄嗟に後ろへと飛び退けたが、下から上へと軌道を描いた苦無は避け切れずに頬を掠めた。



「…………へぇ」




パサッ────




「………お殿様って下帯つけないんだ」

「ッ」



腰帯が切れて落ち、着流しの合わせ目がはらりとはだけ、政宗の白い素肌が月明かりに浮かび上がった。



「…………」



政宗は二度も隙を見せまいと、露になり風を受ける肌にも頬を伝う温かい雫にも気を取られずに忍を凝視した。



「…………やーめた」

「何…………?」



突然、忍は殺気も構えも解いたのだ。



「首取るの止めたってこと」

「………お前んとこは大将の首も取らねぇで帰れるほど甘ちゃんなのかよ」



暗殺に来たからには、成功か死しか選択はないのに、目の前の忍は簡単に第三の選択肢を出してきたので政宗は覚悟のなさに苛ついたのだ。



「まぁ………偵察が目的で、竜の首を取る命なんて受けてないしね〜」

「この俺に刃を向けておいてタダで帰れると思ってるのかよ」

「…………そんな格好で相手するの?」

「…………」



確かにはだけた着流しは邪魔である。



「あんた………殺すには惜しいよね」

「は?」



忍は黒い布を指で下げて素顔を晒す。
整った顔立ちで、口元には笑みを浮かべている。



「月明かりの白い肌が煽状的で、首よりも違うものを奪いたいよ………」

「テメ………ッ!」



細めた視線の意味にカァッと羞恥を感じた政宗は合わせ目を手繰り寄せた。



「ふふ………いいね………その照れた感じ」

「ふざけやがって………」

「えー?俺様本気だけど」



忍はへらっと笑ったが、すぐに視線は政宗から外された。



「あ〜ぁ………もう起きちゃったかぁ………」



政宗も意識を向けると、屋敷が騒がしくなっていた。



「お前………」

「偵察が目的だって言ったじゃん………仕事以外で殺しなんてしないよ」

「ククッ………変わった奴だな」



政宗配下の黒脛巾組は侵入者の忍に対して刃を向けたであろうに、この忍は命まで奪うことをせずに辿り着いていたことに、政宗は意外で笑ってしまった。



「忍にしては変わった奴だな………今日はこのまま見逃してやるよ」

「いいの?次は首狙いに来るかもしれないよ」

「構わねぇよ………返り討ちにしてやるからな」



政宗は刀を忍に向ける。



「その代わり………名乗って行けよ」

「名前?忍の名前が知りたいなんて珍しいお殿様だよね」



刀と同じように妖しく光を宿す政宗の瞳を忍は真っ直ぐ見つめる。


縁側と庭先


この距離を縮めたい、そんな感情さえ漂う空気が流れた。


交わしたい言葉はまだあるが、部屋に向かってくる気配や足音が近くなってきた。



「………それじゃあね」

「あぁ………」

「俺の名は………─────





忍は黒い煙に覆われ姿を消した。




「また近いうちに会う気がするぜ………」



ひらひらと舞い落ちる黒い羽を見つめながら忍の名を声にして頭に反芻させる。


風貌も言動も様変わりした忍の存在は、秋風と共に政宗の心を吹き抜けて行った─────










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佐政ならどんなんでもオケー。とのリクエストをいただきました!
銀冬さんとはお名前のことでやり取りしたので、名前がテーマに(笑)
10万打のキリ番がスルーされていたので、報告が嬉しかったです!
ありがとうございました。

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