捧げ物
The Last party
























「好きだよ」




「竜の旦那のことが大好きだよ」




「ねぇ、聞いてる?ホントに好きなんだよ」







相も変わらず愛を口にする。


挨拶と何ら変わりなく愛を呟く。


相手をしていなくても愛を語る。


愛想が尽きることなく愛を囁く。









『愛』











「ねぇー、俺の気持ち伝わってるー?」

「あぁ………分かってる分かってる」




持ってきた主人の文を渡してから返事を受け取るまでの間は、決まって愛情を向けてくる。


書き手同様に豪快に書き綴られた文字を解読し、
他愛ない文への返事に頭を悩ませるので、目の前にいる忍は決まって二の次だ。



「会いたかったよ」

「そうか………」

「ホント、好きだなぁ〜」

「そうか………」



気のない返事でも、気を悪くすることなく、にこにこと畳の上に胡坐をかいて待っていた。




「クソッ…………読めねぇ」



考えても解読不可能な、羅列された象形文字に苛つき頭をかいて溜め息をついた。



「えー?どれどれ?」



頬杖をつきながら不愉快そうに指差す文を、正座をしながら近寄り覗き込む。



「ははっ………これは『華』だよ」

「華!?これが?」

「うちの旦那ってば、あんただからって綺麗な言葉を使おうと無理してるんだろうね」

「こんなもん読めねぇよ」

「慣れないことしちゃうからねぇ〜」



政宗は苛つきから投げやりになって文から視線を外し、隣りで微笑む佐助を睨む。



「毎回くだらねぇ………お前がここ来る理由作るために書かせてんじゃねぇのか?」

「そんなことないって!旦那はあんたに想いを馳せて、堪らず文を書いてるんだよ」



疑いの眼差しを計算高い忍に向ける。
動じることなく笑みを不機嫌な竜に向ける。




「でもまぁ………その文を託す相手は間違えてるんだけどね」

「お前じゃ役には立たねぇな」



ふふっと笑いながら、もう一度文と向き合うことが面倒臭くなった政宗は文を二つに折り畳んだ。




「…………近ぇ………」

「んー………?あんたの匂いに欲情したのかも」



文を覗く位置まで寄ったので、自然と意識は奪われる。



「本当に………主従揃ってお前等は物好きだよな」

「んー?」



佐助は政宗の白い首筋に唇を寄せる。



「男を………それもこんな片目の野郎がいいなんて………」

「俺なんて両目が見えないよ?」

「は………?」



迫ってくる手と唇に身を任そうとしたが、疑問に動きが止まる。



「どういう意味だ?」

「ん?恋は盲目っていうじゃん?」






シャキィイ──────ンッ!




「ちょ、お殿様!冗談なんだから簡単に抜刀しないで!」

「笑えねぇな………とりあえず首だけで許してやる」



政宗は傍らにあった脇差を向ける。
佐助は鼻先に迫る刀を両手で挟み抑える。



「どうせ、死ぬなら、腹上死で、お願い、します………ッ!!」

「死人に口無し」



双方の力で切っ先がかたかたと震えた。



「一思いに楽にしてやるぜ?刀の錆になれ」

「俺様の太刀であんたを貫くまでは悔いが残って死に切れません!」

「お前ッ…………そればっかだな」



政宗はがくっと脱力してしまった。



「そうだよ、四六時中竜の旦那のことを考えてるよ」

「冗談言いやがって」

「俺様だってたまには本気だよ………」



佐助は脇差しを放り投げて、今度こそ政宗の首筋へと唇を寄せた。




「待て………」

「この期に及んで………もう止まらないよ」

「ん………ここじゃ嫌だ………」

「片倉さん?別にいいじゃん」

「よ、くねぇ………ッ」



佐助は、着流しの合わせ目から冷たい指先を差し入れたので、政宗は過敏に反応してしまった。



「声………聞かせてあげたら」

「嫌だって言ってんだろッ」



政宗は佐助の肩を押しやり抵抗をする。



「ここまで来ておあずけなんて堪んないよ?」



切羽詰まった表情を向けて懇願する佐助に思わず苦笑いが零れる。



「フッ………お前って聡いんだか鈍いんだか分かんねぇな」

「え…………?」

「ここじゃ嫌だって言ってんだろ?」

「…………──────ッ!!」



言葉の意味を悟った佐助の行動は早かった。

瞬時に政宗の羽織を掴み、政宗に掛けてそのまま抱き上げ部屋を飛び出した。



「うぉ!?」



あまりの素早さに政宗は驚き声を上げた。

片手で政宗を抱き、片手で大きな鴉に掴まり空を舞う。




「じゃあさ、どこがいい?」



誘い出されて嬉しそうに微笑む。



「どこでもいいさ」



二人きりなら場所など問わない。




「なら、落っこちないようにしっかり掴まっててね」

「そうだな、お前は薄情だからいつ手を離されるか分かんねぇもんな」

「離さないってば」



憎まれ口を叩きながら、佐助の首に腕を回した。

離れたくない不安、もっとくっつきたい甘え

そんな素直ではない政宗が愛おしくて堪らない。




「このままどこか遠くへ連れ去ってしまいたいよ…………」



風切り音でかき消される儚い本音。
ぎゅうっと抱き締める力を強くした。




「このままどこか遠くへ連れ去ってくれよ…………」



告げてはならない淡い願い。
抱き付いた身体を更にすり寄せる。







一国の主
同盟国の忍





相容れない

間柄でも


愛を重ねる





ときよ、とまれ


いまを、とわに








『愛』
















12.04.18
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4周年記念&最終更新小説
ありがとうございました。

禅屋 凛

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