進め!巨人殺し
完全包囲されました(エレジャン+リヴァ+ミカ)
※『ツッコミきれない』の続き






「俺はここで死ぬのか・・・・」
ジャンの視線はとても遠く、顔色は優れない。
それは当然であろう。


エレンのためならこの世の全てを敵にすることも構わず、
無償で命を捧げるミカサからエレンを取り上げなければならないからだ。
それも、男にカラダを差し出すために・・・・


「俺、死んだな・・・・」
深く深く溜め息をついた。
これも全てエレンが原因だ。
しかし、逆にエレンだけが救いの存在となる。
リヴァイもミカサも、エレンが頼むことだったら聞いてくれるかもしれない。

「くそ・・・・俺の命がアイツに掛かってるなんてな」
悔しいが縋るしかない。
ジャンはもう一度深く息を吐き、エレンの元へと向かった。






「おい」
「・・・・何だよ」
エレンはジャンに声を掛けられて明らかに不機嫌な表情をした。
ジャンも、何故コイツなんかに!とイラついたが、喧嘩などしては元も子もない。


「頼みがあるんだ」
「は!?お前が!!?」
「・・・・あぁ・・・」
「な、何だよ気持ち悪いな」
「・・・・・」
込み上がる怒りを必死に抑える。

「あのよ・・・・お前のことが多分好きなのかもしれない奴がいてよ」
「は・・・?」
「それで、お前と2人っきりになりたいけどミカサが常にお前を監視してて近寄り難いんだ」
ジャンは腹が立つからエレンを視界に入れないようにしながら話を続ける。

「だから、お前からミカサに頼んで欲しいんだよ」
「・・・・」
「どうか邪魔をしないでくれって・・・・あ、いや、ミカサにしてみたら邪魔をするつもりじゃないんだろうが」
「まぁ、言いたいことは分かる」
「あぁ・・・・」
ミカサを邪険にする発言をしてしまい、ジャンは自分に嫌悪した。

「相手が男だから余計にミカサは気に入らないかもしれないけど、頼む・・・・」
じゃないとジャンの命が途切れる。

「相手って・・・・俺への好意を見せないよな?」
「・・・・まぁ」
リヴァイに言われた時は正直驚いた。

「むしろ、嫌ってるんじゃないかって思える?」
「そうだな・・・」
エレンへの暴力は何度も見掛けたことがあるが、あれが愛情なのだとは到底思えない。

「俺の近しい存在か?」
「あぁ」
お前の上司だ、当たり前だろう。

「・・・・それがお前の頼みか?」
「そうだ」
まだこんなところでは死にたくない。


「分かった」
「ッ・・・・」
エレンの了承の返事にジャンの表情は明るくなる。
これで命が繋がるのだ。


「ミカサ!!ミカサー!!!」
「なぁにエレン?」
エレンが呼ぶとミカサはすぐに姿を現した。
今も監視をしていたからだろう。
ミカサのエレンへの執着にジャンは改めて傷つく。

「なぁミカサ、お前は俺が幸せだったらお前も嬉しいよな?」
「当然でしょ?あなたの幸せは私の幸せ」
「なら、俺を過保護にすることをやめてくれ」
「どうして?」
恐らくジャン以上に傷ついた顔をした。

「俺も男だ・・・・お前に見られたり知られたくないこともある」
「・・・・」
「だから頼む・・・・俺の幸せを願って俺の好きにさせてくれ」
「どうしても?」
「あぁ・・・・俺のすることに口出しも妨害もしないでくれ」
「・・・・それがエレンの幸せなのね?」
「あぁ」
エレンの真剣な眼差し。ミカサはすっと眼を閉じた。

「分かったわエレン・・・・あなたがそれを望むのなら」
「ありがとう、ミカサ」
「けれど忘れないで・・・・あなたを苦しめたり悲しませたり、害を与える対象物は消す」
何て上手く事が進むのだろうか。
ジャンは生への喜びを感じていた。

「・・・・・」
「ッ!!??」
しかし、ミカサが立ち去る直前ジャンへ向けられた視線にゾクッとした。
生とは真逆の殺意・・・・?



「ジャン・・・・これで良かったか?」
「あぁ!助かったよ」
悪寒を振り払うようにジャンはエレンに笑みを向けた。

「・・・・ジャン・・・・」
「あ?」
エレンは俯き気味でジャンの服の袖を掴んだ。

「俺・・・・素直になれなくてごめん」
「は!?」
心なしかエレンの顔は赤く見える。

「お前も俺と同じ気持ちだったなんて・・・・」
「はぁ!!??何言って・・・・ッ」
ジャンはハッとした。

男でエレンと仲の悪い近しい存在。
それが自分にも当てはまるということに気付いた。

「お前・・・・まさか・・・・俺のこと」
「俺に言わせるのかよ」
「ッ!!!!」
少し拗ねたように上目遣いを向けるエレンにジャンは確信した。

「おいエレン、お前勘違いしてるけどその相手は俺じゃねぇぞ」
「え・・・・」
冗談じゃないと言い捨てると、明らかにショックを受けたエレン。

「ッ!!!!」
そしてジャンは更に重要なことに気付いた。
喉元に刃先を向けられているような気配。


『害を与える対象物は消す』

ミカサの言葉が脳裏を過ぎり、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
このままエレンを無下にしたらミカサに消されるという確証。

「あ、いや、俺じゃないわけじゃないというか、何というか」
「お前ってホントにひねくれてるな」
否定を曖昧に撤回するとエレンはホッとした顔を見せる。

「だけど・・・・お前の気持ち分かったら、そういう所も許せるよ」
「お、いッ!?」
エレンはジャンの腰に手を回したので、ジャンは焦る。

「なぁ・・・・」
「ッ・・・・」
胸倉を掴み合った時にしかこんなに至近距離に顔を寄せたりしない。
ただ、今のエレンは熱に浮かされたように潤んだ瞳でジャンを見つめる。

「目・・・閉じろよ」
「は!?」
「だって恥ずかしいだろ・・・?」
「ッ!!!」
赤くなるエレンにジャンは不覚にもキュンとしてしまった。
喧嘩しかしない相手の意外な一面は思いの外威力がある。

「ぅ・・・・ッ」
頬に手を添えられ、目を細めながら顔を寄せるエレンを拒むことも出来ずジャンは硬直した。
近付いてきた唇の気配にぎゅっと目を閉じる・・・・



「いだだだだだたッ!!!!」
「ジャン!?」
突如ジャンは肩に痛みを感じて叫んだ。

「いよぉ・・・・」
「へ、兵長ッ!?」
そこに立っていたのは、薄ら笑いを浮かべているが目は殺人鬼のリヴァイだった。

「まさか、手段は問わないとは言ったがこんな手を使うとはな・・・・」
「いや、これは、」
「それともこれがお前の望みか?」
「いや、それは、違っ」
肩に置かれた手の握力が半端なく、ジャンは痛みに涙が浮かんだ。

「兵長!離して下さいッ」
「ほぉ・・・・俺に指図するのか」
「すみません・・・・でも、ジャンは、俺の大切な人なのでッ!!」
ジャンは心の中で「止めてくれ!!火に油を注ぐな!!」と叫んだ。

「エレン、このチビを消せばいいのね?」
「ミカサ!?」
「おい女・・・・出来ないことは口にするなよ」
「エレンは私が守る」


(ヒィィイイイイ!!!)
ミカサの登場で一触即発の現場に最早生きた心地などジャンには微塵も感じられず、肩を抑えながらへたり込んでしまった。


「やめて下さいッ」
「エレン・・・・」
「2人共落ち着いて」
その場を収めたのはエレンの捨て犬のような縋る姿だった。

「兵長が何を怒っているのか分かりませんが落ち着いて下さい」
(悪くない・・・・)
「ミカサも、俺は何ともないから、な?」
(エレンエレンエレンエレン・・・・)
「ジャン・・・・大丈夫か?」
エレンは膝をついてジャンを心配する。


「ッ─────────」
もう一度この場が緊迫した瞬間だった。

(俺・・・・やっぱ死んだ・・・)
自分を心配するエレンの後ろにそびえる二つの殺意。

「おいッ!!ジャン!?」
自分に恋心を抱くエレン。
そのエレンに執着するミカサ、リヴァイ。
ジャンの逃げ場はここにはない。
だから遠退いていく意識。



悪い夢なら早く覚めてくれ






××××××××××

不幸な男、ジャン。




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あきゅろす。
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