戦国
さらりさらさら(佐→政)

















「長………、文が届きました」

「俺に?」






月が雲に隠れた時
一通の文が佐助の手元に届けられた。





「どこから?」

「伊達の者からです」

「だ、伊達!?」



予期せぬ名前に声が裏返るほど心臓が躍った。
何故、誰が、何が………



「え〜っと………、ちょっと散ってて」



部下達を払い、木に寄りかかりながら開けるのを躊躇った。



「何で………伊達から?」



不審に思いながらも目を閉じ文に鼻を寄せると、僅かな香が漂い、




「竜の………旦那………」




頭が、嗅覚が、カラダが憶えている香りに目眩がしそうになった。




カサッ───




文を広げると、更に香がふわりと舞い、
佐助は大きく息を吸い込み文に目を落とした。






『忍如きに筆を走らす恥は墓場まで持って行く』

「はは………言ってくれるね、確かにそうだけど」



書き出しの暴言は、らしさが滲み出ていて思わず苦笑いが零れてしまった。



『来る七日、我が城下にて祭りを開催するため真田を連れて来られよ』

「あぁ〜、派手好きだもんねぇ……自慢したいのかな?旦那は喜んで行くけどさ」



国を、民を愛する得意気な笑みが頭に浮かび、ため息を吐き出した。




そして、

簡潔な誘いの文字の後に続く一文に目が留まる。





『夜風流れて 暑気払い
  月照らされて 影濃いし』





「………奥州も夜は過ごしやすいってことか……?」




信州でも心地良い風が吹き流れ、
さらさらと葉が、木々が騒ぎ、
佐助の髪を揺らした。




その歌のような言葉を見つめる。



何か引っかかるような、
意味が含まれているような

あの男が何の変哲もない文を送るだろうか、
勘繰り過ぎなのだろうか………




「…………」





雲の切れ間から月明かりが差し込み、
ゆらゆら風に靡く髪が、文に影を落とした。





影濃いし



影………


こいし



来い…………?



恋………し……い?





「えッ!!」



佐助は1つの仮説に辿り着き、己の声の大きさに慌てて口を手で塞いだ。



「いやいや………嘘だろ………」



『影』とは間違いなく己を指しているだろう。

そして、『濃いし』に含まれた意味を考えて一気に体温が上がった。



「………あのお殿様は………ッ!!」



耳まで真っ赤になってしまった佐助は、しゃがみ込んで膝頭に顔を埋めた。


本当に想いを綴った文なのかと思ったら嬉しくて

悪戯めいた笑みを浮かべながら書いたであろう姿が愛しくて

けれど、翻弄されたことが悔しくて






「くそッ………会いたいよ」






心中は大いにかき乱され、

熱くなった身体を冷ますように風は穏やかに吹き、

薄雲のかかった月が輝き、影を落とすのだった。












2011.07.07
××××××××××××××××

文月にちなんでお手紙話。
『夜風・・・(略)』の部分には意味を含ませました。
解読は読み手さんにお任せ。

[*前へ][次へ#]

44/47ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!