戦国
如月の出来事(佐+政)

















「…………いるんだろ………」





小十郎は渡り廊下から庭を睨みながら、呪うように呟く。




ガサッ─────




「ちょっとー、俺様忍なんだから簡単に見つけないでくれるー?」



庭木から逆さに顔を出したのは、へらへらと笑う橙頭。



「気配を消さない奴が忍と名乗るな………で、何の用だ」

「勿論、いつもの」



雪の積もる庭に降り立ち、懐から文を取り出して見せた。



「お前は忍じゃなくて飛脚だったか?」

「あはは………うちの旦那ってば忍の意味を履き違えてるよねぇ」



周期的に恋文を託され、冬の寒さなんて忘れてしまうくらいに、情熱的(悪く言えば暑苦しい)な主人のきらきらと輝く笑顔を思い出し、
佐助はついつい溜め息が零れる。



「政宗様がお呼びだ」

「え?まだ仕事中でしょ?だから待ってたのに」

「………気が散って集中出来ねぇから、くだらねぇ用事を先に済まそうということだろう」

「くだらないなんて言ったら、わざわざ奥州まで来てる俺様は報われないよー?」

「お前───…………いや、いいから早くしろ」

「あ、うん?」



小十郎は何か言おうとしたが、面白くなさそうに口を濁した。

佐助は引っ掛かったが、歩き始めてしまった小十郎を止められるわけもなく、後に続こうと庭から上がった。







「やる」

「へ!?」



いつものように天井裏からの顔合わせではなく、きちんと政宗の自室に入り、違和感を抱いているというのに、
挨拶を交わすよりも先に、箱を渡された。



「えー?何?あ、これ旦那からの文」

「あぁ」



目を合わすことなく政宗は佐助から受け取り、文を広げた。



「ん?何この黒いの?兵糧丸?」

「いいから食べろ」

「やっぱ食べ物なんだね」



見たことのない黒い小さな塊がいくつも入った箱を前に、
いくら毒の耐性もある体質だとしても、佐助は躊躇してしまう。



「いただきます………」



覚悟を決めたように一粒摘んで口に放る。



「苦ッ!いや、甘ッ!?何これ!美味しい!」



佐助は初めての味わいに驚き、黒い塊を改めて凝視していたから気付かなかった。

文に目を走らせているが、佐助の声に口元を緩めた政宗に………



「Chocolate………異国の菓子だ」

「ちょ………こ?へぇ、そんな珍しい物をありがとう!」

「別に構わねぇよ」

「甘い物に目が無いから、旦那喜ぶよ!」

「幸……村………?」

「うん………?」



今日初めて視線を交えた政宗の表情は曇っていた。



「Ah〜………それはお前に、だ」

「え!?でも数があるから」

「幸村には別の機会にまたやるよ」

「え?だけど」

「猿飛!ガタガタてめぇはうるせぇんだよ!政宗様の好意にケチつける気か!?」

「いや、そんなことは、」



意味も分からず小十郎に凄まれて、佐助は更に混乱した。



「ただ、折角珍しいお菓子だから旦那にもって思って、」

「異国ではな、如月にこのChocolateを想い人に渡す風習があるんだよ!」

「馬鹿、小十郎ッ!」

「ッ!!」



政宗に呼ばれて口を抑えた小十郎だが、既に遅い。



「想い人……って………」

「うるせぇ!!返事書くまで表で待ってやがれ!!」

「ちょ、あぶなっ!」



顔を真っ赤にさせて政宗は、肘置きを投げつけた。



「Shit………」

「ま、政宗様ッ!申し訳ありませんッ」

「あぁ………」



口を滑らせた小十郎は畳に額を擦り付けるくらいに平伏し、
恥ずかしさで政宗はまだ熱い頬を撫でた。





一方…………



「えぇー………竜の旦那って俺のこと………どうしよう……奥州に来るのが楽しみになっちゃうじゃん」



枝の上に避難した佐助は、思わぬ告白を受けて嬉しさのあまり顔が緩んでしまった。



「このお菓子って、竜の旦那みたいだよね………」



苦いかと思いきや、とろける甘さ。


佐助は軽く口付けをしてから口に入れ、ほろ苦さを味わった…………










×××××××××××××××
バレンタイン小説。
甘くとろける佐政が大好き。

[*前へ][次へ#]

40/47ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!