戦国
七の願い(佐+政)
「……………何だこれは………」
日中の暑さと打って変わり、
月が静かに辺りを照らし、夜風が涼しく心地好い晩………
政宗の声色も表情も暗雲が立ち込めていた。
「え?何って、笹の葉に着物でしょ〜……」
「Stop………見りゃ分かる話をしてるんじゃねぇ」
目の前にいる男は、分かっているのにわざと的外れな返答をしているから余計に苛つく。
「俺が聞いてんのは、何で笹と着物を……それも女物を持ってきてんのか、だ」
「だって今日は七夕じゃん♪」
「……………失せろ」
「えぇーッ!?」
噛み合わない会話を放棄した政宗は、煙管を取出した。
「ちょっとー!こんな綺麗なのに何の不満があるのさー?」
「……………フゥ………」
政宗は溜め息と共に煙を吐き出す。
「………不満を挙げるとしたら、お前の存在だ」
「あはは〜……まぁまぁそんな釣れないこと言わないでさ、折角の七夕なんだから逢瀬を楽しもうよ?」
佐助は少しも挫けずに、鮮やかな着物を嬉しそうに広げて見ていた。
「はぁ?逢瀬だぁ?」
政宗の不機嫌な表情は更に曇る。
「………つい先日も勝手に来て、ヤルことやって勝手に帰りやがった男がよく言うよ」
「ちょ、その言い方は俺様が身体目当てでしかないみたいじゃん」
「………違うのか?」
「ぅ………」
政宗は煙管を咥えたままにやりと笑った。
「んー………違わなくはないかもしれないけど………」
その妖艶な笑みに佐助は言葉が詰まり、腰が引けてしまった。
「どうなんだよ?」
「もぉ…………!いいじゃん!そんな意地悪言わなくたってさぁ………」
「…………」
佐助は膝で近寄り、政宗の頬に手を添えた。
「俺は………竜の旦那に会いたくて来てるんだ」
「…………」
「会いたい……それ以外の理由では来ていないよ………」
真剣な眼差しで……
身体を重ねている時、耳元で囁く声と同じ響きで………
政宗はゆっくりと瞼を閉じた。
佐助は気付かれないくらい僅かに口端を上げた。
「…………」
「…………じゃあ、この着物に意味はないんだな?」
「痛い痛い痛い痛いッ」
唇を合わせて甘美な一時………と思っていた佐助は、油断していて政宗に指の関節を極められてしまった。
「折れちゃう折れちゃうぅぅ!」
「で、どうなんだよ?」
「ははは………新しい趣向?」
「ばーか」
「ごめんなさい………身体も目当てです」
悪戯に笑う政宗に釣られて降参したように佐助も笑った。
「ねぇ………竜の旦那は、綺麗な物を汚すのと、汚れた物を綺麗にするの………どっちがいい?」
「………………」
質問の意味を政宗は少し考えてから、佐助の指を離した。
「…………綺麗な物を汚す方だな」
「やっぱり?」
二人はくすくすと笑った。
「………甘やかすのは一年に一度だけだぜ?」
「今日は七夕だもんね………」
政宗は着物を掴み立ち上がり
佐助は少し照れ臭そうに、嬉しそうに笑う。
「ちょっと待ってろよ」
「行ってらっしゃい………織姫………」
部屋に一人残った佐助は笹を一枚手に取り、口付けた。
「俺の願い事は………─────
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七夕小説。
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