11月9日(日和/芭+曽)
「芭蕉さん」
曽良君はどことなく熱のこもった目で私を見た。
何かを欲している目だ。
どうしたの、と応えるとじっと見つめた黒いまなこがまばたきをした。
「句を詠んでみませんか」
ゆっくりと柔らかな声色。
あれ、今日は海の日だっけ。
勘違いしてしまいそうな優しい言葉だった。
鬼弟子のはずなのにそれはまるで聖母か何かのように見えた。
表情も柔らかで優しい。
「芭蕉さん、詠んでみてくださいませんか」
なんだか今日はいけそうな気がする。詠んでみようかな…。
恐る恐る、今日の曽良君の様子を詠んでみた。
殴られるかも。目をつむって痛みに耐えようとする。
しかし一向に暴力はとんでこなかった。
あれ?
「まあ、いいんじゃないですか?まだスランプみたいですけど」
どうして今日はこんなに優しいの?
思わず口から言葉がもれていた。
曽良君は少し考えて小さく呟いた。
「今日が良い句の日だからですかね」
暖かい冬の一日のこと。
091109
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