おはようございます芭蕉さん。(日和/芭蕉←曽良)
鳥の囀り。日の陽光。
いつもと同じ朝の風景。
「芭蕉さん起きてください朝ですよ」
今日も今日とて宿の朝。
(一応)師匠の松尾芭蕉を起こすのが弟子である僕の役目。
芭蕉さんは寝起きが悪くなかなか起きない。今日も相変わらず、ふすまを開けて入ってきた僕を気にせずすやすや寝こけている。
「芭蕉さん」
ゆさゆさ。まだ起きない。
「起きてください」
ゆさゆさ。まだ起きない。
まだ、起きない。
「芭蕉さん、起きないと…」
布団から少しはみ出て寝汚い。
いつも僕を映してくれる目蓋はしっかり閉じられ(寝ているから当たり前)髭はいつもより濃くて(朝だから当たり前)皺は深くて(歳だから当たり前)唇は少し開いてて(息してるから当たり前)。
ああ良かったまたいつも通り。また朝が来てくれた。また芭蕉さんと1日がおくれる。
ああ良かった。こんなに素晴らしいことはない。こんなに嬉しいことはない。
「芭蕉さん」
あとひとつ。あとひとつで僕の確認は終わる。いつも未遂で終わってしまう大事な大切な作業。
ああ芭蕉さん、どうかそのままでいてください。どうか、どうか起きないで。
一秒だけでいい。僕にあなたの時間をください。
あと少し、あと三センチ。
あ、この時代にはまだセンチは使わなかったかな。
「…芭蕉、さん」
息がかかる。お願いだから吐息すらしないで。死んでしまうようにそこにいて。死んでしまうように一瞬だけ。
「起きないと、…接吻してしまいますよ?」
確認、ひとつ。
「ぅう〜ん?」
ごろ、ん。芭蕉さんが寝返りをうつ。
ああ。また出来なかった。
ああなんてことだなんてことだ!これでは恋する乙女ではないか。
芭蕉さんと接吻なんて汚いいやらしい恥ずかしい!
ああまったくこの男のせいだ!!!
「ぶふあー!!」
「はやく起きてください芭蕉さん、永眠させますよ」
「また君かー!どうして毎朝蹴って起こすんだい!」
「触ると汚いですから」
「なななにー!」
蹴りたくて蹴ってるわけじゃありません!
未遂→蹴り。これもまた日常のうちですよ。
――――――
曽良乙女。サドデレ萌
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