ロンリー・チョコレート・デイ (学バサ/慶→半)

今日は待ちに待ったハッピーバレンタインデー。男子も女子もみんな落ち着きなくあたりを見回している。
特に男子は今日いくつ貰えるかで男としてのパロメータが決まってしまうから死活問題らしい。

俺は貰えなかった年がないから(というとキレられるが)それは大丈夫なのだが。でもやっぱりどこか落ち着けない。休み時間は意味もないのにあちこちのクラスに出向いてしまう。

「なあ、慶次何個もらったんだ?」
「Hey、休み時間の度に出てってんだ。そりゃあgetしてんだろうな」
元親と政宗が後ろの席から聞いてきた。すでにもらったチョコを食べている。おいおいと思いながらも俺もひとつ手を伸ばす。
「何個だろーなあ。女の子の友達いっぱいだから分かんねえや」
「HA!なんて羨ましいセリフだぜ」
「お前だっていっぱいもらってんだろ」
チョコは手作り感たっぷりのデコレーションだ。きっと本命なんだろう。一目見れば不良なこいつらはそりゃあモテる。
俺のチョコはたぶん義理率が大抵だ。これだから友達はつらい(もらえるだけで嬉しいけど)


「なあなあ、それより聞けよ慶次」
「え?」
「アイツさっきチョコ貰ってたゼ!しかも結構かわいい子」
アイツ、と元親が指さすのは窓際の一番前に座るあいつだろう。
太陽光に照らされて銀に光る白の髪。風が見せる首筋は白く細い。貧弱で病弱で学校すぐ休んでそのくせ頭がハンパなくいい。俺達みたいなのと一線引いてるようで話したことはあまり、ない。今だってひとりで本を読んでいる。

「まぁあいつ、顔は良いからな」
「だからさ、アイツ何個もらったか聞いてみようぜ!」
気になるだろ!と肩を組まれてあいつのとこまで連れて行かれる。

そりゃ気になるさ!
だってあいつはすげぇ美人なんだから。生まれてくる性別間違えただろ、ってくらいべっぴんさん何だよ!男じゃなかったら好きになってたよ(相手にはされなかっただろうけど)


「たーけなーか君!!」
振り向きもしないであいつは応えた。
「何」
鈴を鳴らすよう、とはうまく考えたものだ。あいつの声はまさしくそれだった。
「さっきチョコ貰ってたよな?誰だよ。お前の彼女?」
「違う」
「へぇ。で、他にももらってんの?」
「別に」
「An?テメェ何様のつもりだ?しっかり答えろ」
短気な政宗のキレがちな問いにも臆することがない。それが不思議で堪らない。
「例え貰っていても君達に答える義理はない」
「答えてくんないなら…」
「勝手に見させて貰うゼ!?」
手の早い元親が掛けてあった鞄を手に取る。
「あっ!ちょっと、君達」
さすがに焦っている。自分の持ち物を見られるのは嫌なのか。
「前田君!君も見ていないで止めたらどうだい!」
「へ?」
成り行きを見守っていた俺は突然振られてとにかく驚いた。
なにせ、あいつが上目づかいで俺を見てたから。男だってわかってるのに心臓が高鳴った。ヤバい。

と、政宗の茶化すような口笛。
「お前結構貰ってんじゃん?」
「や、止めないかっ!返してくれ」
見せびらかすようにひとつふたつと教卓に載せていく。
「慶次そいつ抑えとけ」
いつもなら駄目な事は駄目と言うはずなのに、今日ばかりは好奇心が勝ってしまった。細い体を後ろから羽交い締めにする。ふわりと香る石鹸の香り。
(ヤバい、マジでヤバい!)

「えぇっと…12個?すげー!誰からもらったんだよ」
冷やかしがクラス中から入る。政宗と元親の悪戯はいつもの事だから誰も止めない。俺も、止められない。
「離せ!前田慶次!」
「いや、俺?」
抵抗する体は細くて弱くて壊れてしまいそうだ。一体何を食べていればこうなるのだろう。

「coolになれよ。悪くはしねぇ」
政宗は一際綺麗にラッピングされた箱を手にした。それを手元でくるくる回している。

「…!」
それを見たとたんあいつの抵抗がピタリと止んだ。


「触るな!!君みたいな人間がそれに触れるなッ!」
この細い体から発しているとは思えない声が飛んだ。


一瞬教室が静まり返る。政宗も元親も呆気に取られている。
「そ、れは、ぼく、の、」
「え?あ、おいっ!え!?」
細い体から力が抜けて俺にもたれかかってきた。抱き留めるのに苦労はしなかったがあまりのことに俺は焦った。
(心臓飛び出て死ぬ!)



保健室に(俺が)(いわゆるお姫様だっこで)運んでいくと、ただの貧血だった。保健の先生はいつものことだから心配しなくていいと笑っていた。政宗と元親もヤりすぎたかと笑っていた。クラスのみんなもあんな竹中君初めてみたと笑っていた。
俺は、俺だけは、笑えなかった。だって、

(これって、この気持ちって、)
(じゃないか!?)




白銀の髪、すげえ綺麗。
長いまつげ、すげえ綺麗。
淡い唇、すげえ綺麗。
竹中半兵衛、すげえ綺麗。

寝てても絵になる。ヤバい、可愛い。
ずっと見ていると身じろぎした。俺の視線で起きたのか!?

「まえ、だ、くん、」
「あ、起きたか?は、ん、半兵衛」
「ごめ、今、何時?」
名前よびはスルーされた。いや、嫌がられなかっただけよしとしよう。
「6時間目、もう終わるから…放課後?」
「本当?あ、僕、帰る、」
保健室の簡易ベッドがぎしりと鳴る。ふらつく体で俺の横を通ろうとしているのをつい、止めてしまった。
「半兵衛、今日は悪かったな…俺、止めなきゃいけねえのに止めなくて…。しかもチョコ、あれ大切なやつから貰ったんだろ?ちゃんとカバンに入れといたから」
はい、とカバンを渡すと半兵衛は大切そうにそれを受け取った。
「…あの、違うんだ」
「ん?」
「これ、貰ったやつじゃなくてね。あげるやつなの」
「は!?」
上目づかいで照れくさそうに話す半兵衛に、俺は一撃でノックアウトされた。

「け、慶次君にあげるよ」
「?」
「本当は違う人にあげるハズだったけど、伊達君が触っちゃったし、あげる…あ、僕、用事あるから、帰るね」


小走りで保健室から出て行く半兵衛を見送った後、俺はゆっくり深呼吸をした。
頭の中はごちゃごちゃだ。
名前で呼ばれた(君付けだけど)
チョコ貰った(おこぼれだけど)
違う人にあげる(伊達君が触っちゃった)!?

触ったからってあげるの止めるか?てことはこれ、俺にあげたかった?つまり俺に気がある?

Are you OK?
(政宗か!)


だんだんまともな思考ができなくなってきた。俺はベッドに倒れ込むとピンクのリボンをゆっくり引いた。







(本命がずっと欲しかった)





するり、リボンを取り、箱をあける。




「NO―――――――――――――――!!!!!!!」



今時見ないぜマイハニー

ハートマークの真ん中には綺麗な字で『秀吉』と書かれていた。



「うるさいですよ、前田慶次」
「うるせぃ!!先生にはわからんやい!!」


(秀吉って幼なじみなんだよ!!)




――――――――――
秀半←慶?
半兵衛と慶次がお友達未満。
我が家の半兵衛は秀吉が大好きですので俗なもの(政宗)に触れられたチョコは汚れてて秀吉にあげられない!と思ったんでしょう。

慶次君はダブルショック!

シリアスになるつもりだったんだけどな…。
先生は保険医の光秀さんです。

title by.揺らぎ

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