授業が終わってすぐ、白銀は教室を出て行った。目指すのは生徒会室。

乱暴に鍵を開けて散らばっている書類を床に落とし、椅子に座るとパソコンを起動させた。大きく耳に響く電子音。
掌を握り締め、心を落ち着かせる。
キーボードからパスワードを入力。幾つも、幾つも。
厳重なパスワードの類を一掃させてそこに辿り着いた。

ひとつのファイル、全校生徒の個人情報。白銀がハッキングしたものすべて。

クリック。

指先が震える。

一年生、クリック。

教師に聞けばすぐに分かっただろう、たった一個の情報。

一組、クリック。

ひとりでないと出来なかった、こと。

二組、クリック。


なんで、


二海堂 昶


目に映った名前は、白銀からチャイムの音さえ消し去った。

間違えるわけがない。

指が操られているようにその名にカーソルを当てた。

クリック


写真と、経歴と、家族構成、エトセトラ。



もうひとつの名と、横に記されるひとつの単語。




体が崩れ落ち、冷たい床に膝をつく。カラカラと椅子が転がり壁にぶつかった。
灯りのない部屋のなか、窓から見える灰色の雲。雨が降る。



「…劉黒」


いとしいあなたの名。
いなくなった今でも、心を占めるのはあなた。


忘れられない鮮やかな記憶。
(そう、せんけつみたいに)


(あなたがながしたみたいに)



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