さらり、と風を切って俺の横をすり抜ける。なんの香りだろうか。落ち着いた匂いが鼻をくすぐった。
振り向いても、それは絶対的な存在感を誇っていた。


しろのかみがふわり、ゆらりゆれている。



「ぅ、うっわぁ!!なあなあ昶見た?白銀さんだよ、すっげきれぇかわいいかっこいい!」
「うざい」
顔面を殴った。
「ひでえよ昶!」
「うるさい」
賢吾にかまっていたら『白銀さん』はもういなくなっていた。どこかイラついて今度は賢吾の腹を狙って蹴った。生存本能か野生の何かか、賢吾はそれをかわす。
「あぶねぇし!っていねぇ!!」



賢吾を置いて俺は昇降口に来ていた。もちろんサボって学校を抜けるためだ。
靴を履き替えながらも頭の中には『白銀さん』でいっぱいだった。
三年、生徒会長、白髪に蒼の目、白磁の肌。日本人離れした顔立ちは、どこかに外人の血が入っているのだろう。穏やかな物腰でどんな人も差別しない優しく落ち着いた性格。さっき賢吾が言ったとおり綺麗で可愛くて格好いい。まあ確かにそうだ。

あの時から、ずっと。

夏の日差しが眩しいほどに俺にふる。
「あきらぁ〜まってよ〜」
「げ、」



騒がしいふたつの影、その声は白銀の教室にも聞こえてきた。授業中だから先生にもまる聞こえだ。まったくあいつらは、とぼやく声を聞いてどこか可笑しくなる。

「昶!!」
ふいに聞こえた叫び声。それは遠い昔を彷彿とさせ、小さな記憶を呼び起こした。

「……あ、きら、…?」

どこかで聞いた事のある名前。それはひどく懐かしい想い人を連想させた。


今はもういない、誰よりも愛してる、唯一人を。



あきゅろす。
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