For your happiness.(三vs信♀)
!注意!
※三政♀+義信♀
※三成と政宗さま♀の結婚前日のお話。義龍さんと信長さま♀は既婚。
※政宗さまを巡る、三成VS信長さま♀。
※若干信さまに余裕がない。
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常々、気に喰わない男だとは思っていた。
そのような男は周囲にごまんといたが、これ程まで癇に障る者は初めてだ。何が、と問われれば、もはや存在自体が許せないのである。
こんな奴の元へ政宗が嫁ぐのかと思うと不安だし、正直かなり胸糞悪い。
祝言は翌日に迫っている。その前に、おれはこの男を見極めたいと思った。否、見極めなければならないのだ。この男の本性を。
「石田三成。おれと勝負しろ」
「…お前は、政宗の…」
彼の男は集団を好まず、家臣さえも近寄らせない雰囲気を漂わせている。よって、城の中庭で一人になった隙を狙うのは容易かった。
鞘から愛刀を抜き放ち切っ先を真っ直ぐに向けるが、男は微動だにせず、無言で佇み此方を見詰め返すのみ。
明日に控えた祝言のために、大人しくしているつもりなのだろう。おれも式に呼ばれている身であり、且つここは政宗の居城なので派手な行動は自粛すべきなのだが、これだけはどうしても譲れない。
「抜け、石田」
「人様の奥方を甚振る趣味を、私は持ち合わせていない」
「…フン。女だと思って舐めていられるのも今のうちだ!」
「!」
碌に構えの姿勢も取らない相手に、しかし問答無用で切りかかった。それを寸でのところで避けた石田の、藤色を基調とした羽織がヒラリと視界の端で揺らめく。
…背後か。
咄嗟に身を捻り、その遠心力を利用して素早く太刀を真一文字に一閃させたが、それも難なく避けられた。
速さでは、石田の右に出る者はいない、か。ならば、これはどうだ。
右で握った刀を、石田の左脇腹目掛けて切り込む。石田が僅かに身構えた。
しかしそれは政宗風に言う“フェイント”というもので、相手の目前で素早く身を屈めると、今度は下方からその首目掛けて得物を切り上げた。
だが、それが肉を絶つことはおろか、皮膚を裂く事さえなく。
石田の、何を考えているのか到底理解し得ない視線だけが、静かに降り注ぐ。
「ほう。流石は政宗の友人といったところか。剣の腕前はなかなかだ」
「…何故だ。何故本気を出さない?」
「言っただろう。私には、人妻を甚振る趣味はないのだと。姫は姫らしく、華でも活けていたらどうだ?」
「馬鹿にするのも大概にしろ!」
石田は確かに刀を使った。使ったが、未だ鞘に収まったままの刀身でおれの斬撃を受け止めている。こちらは真剣を使用しているというのに、頓着の欠片もないのかこの男は。木刀や竹刀とは訳が違うのだ。それを承知の上でこの行動とは、理解の範疇を超えている。
鍔迫り合いを振り切り、数歩後方に飛び退いた。しかし石田が追い討ちを掛けてくる様子も無い。
寒いからと首に巻いていた布が無性に邪魔になり、乱暴に剥ぎ取って投げ捨てた。完全に八つ当たりだ。馬鹿げている。子供染みている。
それでも、この感情を抑える事はできなかった。
女だ姫だと手加減されて腹も立った。が、それ以上に、この男に政宗を渡すべきではないと、胸の内をざわつかせる焦燥感が遥かに上回る。
「もう終わりか?ならば私は戻るぞ」
「待て…!」
「……まだ何か用か」
「石田…何故今更になって政宗に纏わりつく!?自分が何をしたのか、忘れたとは言わせんぞ!」
「……」
石田三成。かつて、政宗や奥州を死の淵まで追い遣った人物。
それが突然、好きだの愛しているだのという話に発展し、そして遂には祝言とまできている。どう考えても、立ち直った奥州を、今度こそ手中に収めようと画策しているとしか思えない。
「おれはお前を信用していない」
「……」
「お前が…あの時お前が泣かせたのは、紛れもなく政宗だ!」
「…そのことなら、私は何も言い返す資格がない。だがそれでも、私は死ねないし、お前に殺されることもできはしない」
これ以上政宗を悲しませられないのだと、石田の表情が苦痛に歪む。この男の人間らしい表情を初めて見た気がした。
さて、どうしたものだろう。ここに来て、冷水でも浴びせられたかのように頭が冷えた。連鎖反応で再び首元が寂しくなるが、先ほど投げ捨てた襟巻きは、生憎北風で飛ばされてしまったらしく何処にも見当たらない。
「……」
「……」
どうにも気まずい雰囲気になってきた。お互い口数が多い方ではないせいで、ただただ沈黙が垂れ込める。
そんな折、回廊に大きく響いてくる足音に気付き、石田から音源の方へと視線を逸らした。それは次第にこちらに向かっているようだ。
「おい信長!こんな所で何やってんだ?!」
慌てた様子で駆けつけてきたのは、おれの夫である義龍だった。
*****
「…で?石田三成に政宗嬢を渡したくなくて、喧嘩を売ったってことか」
「け、喧嘩ではない!政宗に相応しい男か、腕試しをしただけだ」
義龍が来たことでおれと石田は半ば強制的に引き離され、今は義龍とふたり、縁に腰掛けている。石田は政宗の元へと足を向けたようだ。
掌の上では、色とりどりの金平糖がころころと転がっている。義龍が持ってきたものだが、その中に、藤と蒼に薄く色付いたものも混ざっていて、まるで石田と政宗のようだと複雑な心境に陥った。
「ったく。お前は気に喰わなくても、政宗嬢はあいつのこと気に入ってるんだ。長い目で見てやれよ」
「だから、喧嘩ではないと………、いや、確かに大人げなかったとは思うが…」
「はは、本当にお前らは似た者同士だな。俺とお前の祝言前日の頃を思い出すぞ」
「何の話だ?」
義龍の口から、とんでもない話が飛び出した。
約一年前、おれと義龍は祝言を挙げたのだが、その前日、政宗もまた先ほどのおれと同じように、義龍に挑みかかっていたというのだ。そんな話は初耳だった。
「あの女、いきなり刀六本使ってきたもんでな…いや、あの時は焦った。“てめぇに信長を渡してたまるかー!!”って怒鳴られたよ」
「…それで、お前はどうしたんだ?」
「もちろん刀を抜くことなどできなかった。信長の大事な親友を傷付けたくなかったからな。
だから、恐らく…いや、きっと、石田もお前のことを傷付けたくなかったんだ。お前が女だからと馬鹿にしていた訳でもないと思うぞ。まあ、一番は政宗嬢の為なのだろうが」
「そう、か……」
自分で言うのも恥ずかしい話だが、喧嘩も堪えない中、なんだかんだで政宗とおれは互いに互いを大事にしていた。
そしてそれは旦那も同じで、大事な妻の大事な友人を、これもまた大切に想ってくれているらしい。刃を向け傷付けてしまっては、結局自分の妻を悲しませる。そういう考えなのだろう。
それが男心なのだと偉そうに説教を垂れる義龍だが、今日ばかりは反抗せず、その有難い教えを受け入れた。
「だから、石田も政宗嬢も、きっと大丈夫だ」
はっきりとした根拠はないが、しかしその言葉に心が軽くなる。
政宗の幸せを願い、小さな金平糖をそっと握り締めた。
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予想以上に長くなってしまいました;
三政夫婦&義信夫婦を書いてみたかった…のですが、政宗さま名前だけ…す、すみません(滝汗)
結局、三成は政宗さまにゾッコンってことですよwww
2011.2.24
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