結婚非願望(戦スト信+BSR政)
結婚。
男女が夫婦になること。婚姻。
いずれは必ず訪れるだろうその一大イベント。
いつおっ死ぬかわからない戦乱の時代、「早く世継ぎを作らなければ」という気持ちは無きにしもあらずなのだが、どうしても一歩を踏み出し切れない部分がある。
当然、これまでに何度もそんな話は浮上した。が、俺の隣に女がいる、ということが、どうにもイメージできないのだ。
いい加減正室を取れと何度も言われた。小十郎からも、遠回しに女を紹介されたことがある。
しかし、信頼している小十郎にまで…、と考えると、余計に嫌悪を抱いてしまうだけだった。
自軍だというのに、それに関して全く味方のいない俺は、無理矢理結婚を勧められる度にとある場所へ逃げ込んでいた。
「Hey,信長!邪魔するぜ」
「…またお前か…」
俺の突然の来訪に、やれやれと肩を竦めるのは、尾張の若殿・織田信長。
同い年ということに加え、南蛮文化に興味があり、更には国を治める者同士という共通点がある信長とは、いつの間にか意気投合していた。
出会ってもう五年になる。俺にとって、気のおける一番の友人だ。
「うちの門番は無事なんだろうな」
「Ah-ha?心配すんなよ、門通ってねぇから」
以前、アポ無しでここに来たときに門前払いされたことがあった。一国の主に、約束もない武将をそう簡単に会わせるわけにいかない、ってのは当然の話。
だがどうしても信長に会いたくて、話を聞いてほしくて。門番兵をぶっ飛ばして強行突破したことが何度かあった。信長はそれを心配しているのだろう。だが今回は一味違う。
壁を攀じ登ってやったぜ!と誇らしげに胸を張ると、信長は呆然として俺を見上げた。
その白い手には、筆が握られている。書状でもしたためていたようだ。邪魔しちまったかな。
「相変わらずだな。忍の真似事ならば余所でやれ。見て分からないか?おれは忙しいのだ」
「そう堅いこと言うなよなー。俺、超悩んでんのに」
「…全く呆れた奴だ。どうせまた、政略結婚は嫌だの何だのと喚くのだろう?」
「That's right...何で分かったんだよ」
「政宗の行動は大体読める」
流石俺のダチだぜ、と肩を叩きつつ、俺は信長の隣に腰を据えた。
信長も諦めたらしく、書きかけの書状を文机の隅に追いやると、空いたスペースに頬杖を付き「それで?」と一言。
なんだかんだで、いつも俺の話(というか愚痴)聞いてくれるんだよなぁ。
「…最近またうちの奴らが煩くてさぁ。正室取れ、って。俺は嫌だっつってんのに」
「それは伊達家を思っての言葉だろう。お前は国主だ。正室を娶るのは仕事の一部だと割り切るより他ない」
「そりゃそうだけどなぁ…」
「そもそも何故そこまで嫌悪を抱くのか、原因を考えたことはあるのか?」
何故そこまで、と改めて聞かれると、返答に困ってしまう。考えたこともなかったからだ。
いつも、ただ嫌だから、という漠然とした気持ちだけで逃げ回っている。
母親に捨てられたから?
…いいや。今となってはその母親も、単なる鬼女としか思えない。あの女に対する想いなど、とうに捨てた。
ならば、女といると疲れるからか?
…これも、そうと言えばそうなのだが、単に“面倒”の一言では括れない気がする。
きっと俺は、縛られるのが嫌なんだ。
言葉には上手く言い表せないが、結婚ってやつは自分が自分でいられなくなるような気がして仕方がない。想像するだけで落ち着かないのだ、とにかく。
「信長はすげぇよなぁ。美濃の姫さん娶ったの、確か十五の時だろ?」
「全くおれの意思ではなかったがな。それにあれは、嫁というよりは同志に近い」
「Hum...」
そう言って口元を僅かに緩める信長は、いつもより柔らかい表情をしていた。その事実を伝えるとたちまち機嫌を損ねてしまうから、本人には内緒だが。
同志、とは言ってもやはり嫁であることに変わりはなく、信長の中でも濃姫は特別な存在なのかもしれない。
置いていかれたような気がした。
いや、そうじゃない。今の心境は、もっと単純で子供のようなそれ。
信長を…無二の親友を、女に奪われてしまった。そんな独占欲が、もやもやぐるぐると渦巻いている。
「確かに、式を挙げなければならないし面倒だが、それ以上に国への利益が大きいからな…側室までとは言わずとも、正室くらいは取るべきだと思うが」
「そうだよなぁ…けど俺は、」
「!」
すぐ真横にいる信長に、思い切り抱き着いた。近頃何かと忙しいらしく、ろくに飯も食っていないというから少し痩せてしまったようだ。
それでもギュウギュウと自分の身体を押し付けていると、信長は呆れたように溜息をついて…でも、優しく頭を撫でてくれた。
「…まあ、政宗は政宗のペースで頑張ればいいんじゃないか」
「そうだよな、うん。つか、いつの間に南蛮語覚えたんだ?」
「フン。誰のおかげだと思っている」
「So great!あんたは飲み込みが早ぇな」
信長といると、悩んでいたことがだんだんちっぽけに思えてくる。なるようになるさと、心が軽くなる。
やっぱり持つべきものは友だ、という気持ちを込めて、痩せた頬にキスを贈った。
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百合(笑)
2010.12.11
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