さくらひとひら(三政)










【さくらひとひら】










あれだけ降り頻っていた雪は解け、気温の高い昼間には虫の姿も見つけたりして、ようやく春らしくなってきた。
先日降り注いだ春雨のせいで、咲き誇っていた桜は半分以上散って葉桜と成り果ててしまったが、それでもやはり春にしかお目にかかれない薄桃色は綺麗だ。
これで隣にあいつがいれば、花見もさぞや楽しかろうに。


(Shit!!なんだってんだよ、三成の奴!折角花見に誘ったってのに、忙しいから来れないだぁ?!)


思い出しただけで腹が立つ。
昨年の暮れから、奥州の桜が咲いたら花見をしようと約束していたのだが、弥生の中頃、仕事が終わらず抜け出せないと断りの書状が届いた。それを読んだ瞬間の、俺の落胆は言うまでもない。
三成とて一軍を纏め上げる武将なのだし、忙しいのは当然の事。それを、あーだこーだ俺が口出しできるわけはないが、少しくらい俺のために時間を作ってくれてもいいんじゃないか、とも思う。いつもこうなんだ、あいつは。
こんな子供じみた我儘を三成に直接ぶつけたことはないが、それは敢えて口にしないだけであって、本当は。
放っておくと部屋の隅に溜まる埃のように、不満として日々心の隅に積もっている。それはもう、こんもりと積もり積もっている。息を吹きかけたら、ころころと転がっていきそうな程には。
だから次回、三成に会った時はこんな言葉を贈ってやろうと思う。


「“塵も積もれば山となる”!!」

「政宗様、これらの書類も山のように積もっておりますが」

「おわぁ!!こ、小十郎……!!knockくらいしやがれ!ビビッたじゃねーか!」

「“のっく”といいますか声を掛けましたが、お返事が御座いませんでしたので無視されたものと判断し、勝手にお邪魔した次第ですが何か問題でも?」


小十郎は悪びれもなく言い放つと、文机の上にドサドサと紙の束を落としていく。
ああ、そうか。これを片付けるのは俺か。思わず溜息が零れた。これは不可抗力だ。
畑の様子見に小十郎が席を外すタイミングを見計らえば、逃げ出すことも可能ではある。だが逃げたところで結局は倍のダメージが自分に跳ね返ってくるだけなので(逃げている間にも、着々と仕事は増えていく。つまり、削られた時間の中で倍の仕事をこなす羽目になるのだ。人はこれを自業自得と呼ぶ)、それが怖くなって文句を言いかけた口を噤んだ。
国主としての責務だ。分かっている。誰も手伝ってはくれない。当たり前だ。
だからこそ、三成が今どれだけ大変かも理解しているのだが、そんなお偉いさんの立場より、恋人としての立場を優先してほしい、というのが本音。会えない日が続けば続くほど、会いたいと願う。あの、少し冷たい掌で触れてほしいと望む。
これも全て、俺の自分勝手な我儘なのだけれど。


「Have no choice……OK, ちゃんとやる」

「それを聞いて安心いたしました。では政宗様、その代わりと言っては何ですが、こちらを差し上げます」


懐から徐に取り出された紙。どうやら書状のようだが、差出人の部分が小十郎側に向いていて、送り主が誰なのか見えない。
………散々仕事したくねぇと駄々を捏ねた俺への、小十郎のちょっとした嫌がらせなのかもしれない。


「……書状?誰からだ」

「石田三成からです」

「Really?!ちょ…見せろ!」

「ええ、どうぞ。では、私はこれにて失礼いたします。くれぐれもよろしくお願い致しますぞ」

「わーかったって!!Thanks. 小十郎」


小十郎を見送り、手渡されたそれをまじまじと見つめる。差出人は、確かに三成だった。
慌てて書状を広げてみると、中から桜の花びらが一枚、ひらりと落ちた。ここに届けられる途中で混入したのだろうか。袴に付いたそれを掌に掬い上げつつ本紙に目を遣れば、相変わらず達筆な文字が並んでいた。だが、いつもと違い、どこか慌てた様子の筆運びだ。




伊達政宗殿

拝啓 草木の緑を覆い隠していた雪も解け、ようやく温かな日差しが注ぐようになったが、いかがお過ごしだろうか。季節の変わり目で風邪等引いてはいないか。
 先日は、約束破りの書状を送ってしまい、本当にすまなかった。私自身、残念な事この上ないのだが、何より政宗の事を思うと申し訳ない気持ちで胸が痛む。昨年からずっと楽しみにしていただろう。それを断ってしまったのだ。次に会うときは、怒鳴られる事も覚悟しておくとする。
 隙を見て筆を取っているので、相当な乱筆になってしまった。時間があればもう少し丁寧に書きたいところだったが、何分、不定期に刑部が見回りに来るもので、どうにも落ち着いて書を記すことができない。いずれまた丁寧な書状を送りたいと思うので、今回はこれで勘弁してはくれないだろうか。
 末筆ながら、政宗のより一層の健勝と、奥州の発展を心からお祈り申し上げる。 敬具

追伸 摂津でも桜が咲いている。ちょうど部屋に舞い込んできたひとひらを同封した。皐月にはそちらに行けるだろう。もう暫く待っていてくれ。

石田三成




「三成の奴…」


あいつも今、小十郎に見張られている俺と同じ状態だと思うと、何だか可笑しかった。
同時、溢れ出すのは恋焦がれる感情。こんなものを寄越されてしまった日には、ますます想いが募ってしまう。会いたくなってしまう。
桜が見られなくなるのは残念だが、それでも、早く皐月になってくれという願いを込めて、掌に乗せたひとひらをそっと両手で包み込んだ。










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恥ずかしい何この(バ)カップル!!←
書きながら、猛烈に恥ずかしくなりました(笑)
というか、私自身も友達くらいにしか手紙は書かないもので、「ラブレターとは何ぞや?!」と、うんうん唸りながら、みっちゃんの手紙の内容を考えました。結局ラブもへったくれもない文章になったのですがww
しかし本当に恥ずかしい……何故だ……(^^;)



お題:ひよこ屋様



2011.4.16


あきゅろす。
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