ぶきっちょなやさしさ(三政)

石田三成は、足が速い。


足だけじゃなくて、攻撃も回避も、何もかもが素早くて。


どうやら俺は、おいてきぼりを喰らってしまったようだ。







【ぶきっちょなやさしさ】







「Hey, 石田……!Wait, Wait!!」


いくら呼んでも叫んでも、石田は俺を無視してひたすら走り続ける。
奴の足が速いのは、今に始まったことではない。


でもよ。


(仕方なくだけど)Partnerになった俺のこと待ってくれたっていいじゃねぇか。
いや、ていうか待ってくれ、マジで。


「……石、っ、石田…!……あぁーもう!!勝手にやってろバーーーカ!!」


俺はとうとう根を上げた。無理なんだ。あいつに合わせて行動するなんて、ハナから無理だったんだ。
どうせ聞こえやしない悪態を大声で叫び、敵の陣地内にも関わらず木の影に腰を下ろした。

肺は酸素を求めて、ぜいぜいはあはあ、速く浅い呼吸を引っ切りなしに繰り返す。
こんな全力疾走したのなんて何年ぶりだか。


「…っん、ふう…はぁ〜あ……全く、どうしたもんかね」


ようやく酸素が全身に供給され、脳がまともな思考回路を取り戻した途端、出てきたのは深い溜息。

石田に嫌われてるのは知ってるんだ。
だけど、一緒に戦うからには、少しくらいこっちのペースに合わせてくれてもいいんじゃないのか?


「…HA,あのヤローが、俺なんかに合わせる訳ねぇか。…いてて、」


自暴自棄になった俺は、走りすぎて痛む脇腹を摩りながら、完全に休憩モードに入っていた。
何せ、石田が通った跡に敵は残らないからだ。一人も取りこぼすことなく斬り進むとは、奴らしいっちゃあらしいけど。

おかげで、こうしてのんびり休めるってわけだ。
血生臭いのは、この際我慢することにしよう。


「あー…疲れた…」

「おい伊達!!何処に消えたかと思えば、こんなところで何をしている!」

「…は?石田?!えっ、な、ななな、何で戻って……?!」


完全にだらけているところへ飛んできた怒号。
見上げると、俺とは対称的に全く息を乱すことない石田が、こちらを睨み付けていた。
…てか、いつの間に目の前まで戻って来たんだよ。気配にすら気付けなかったって。
忍か。忍なのかお前は。むしろ忍になれこの際。


「サボるとはいい度胸だ」

「サボっ……、No!!あんたに追い付けなかっただけだっつーの!」


お前が先走って、手当たり次第敵を薙ぎ払っていくから、俺の出番もなくなるんじゃねーか!
無性に腹が立って、足元に落ちていた小石を投げ付けてやった。どうせ避けられるだろうから、顔を目掛けて。

案の定、投げた石は軽やかな動きで避けられた。
しかし石田は、怒るでもなく呆れるでもなく、じっと俺を見下ろしている。
痛いくらいの視線を向けられ、いたたまれなくなった俺は二回目の根を上げた。


「ああもう、何だよっ」

「……行くぞ」

「嫌だ。あんたにはついていけねぇ。一人で行けばいいだろ?俺のことはもう放っとけよ」

「いいから来い」


一人で進めばいいものを、石田は座り込んでいる俺の腕を掴んで、力任せに無理矢理引っぱり上げてくる。
肩が外れそうなほどに加減なく腕を引かれ、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。


「いっ…てぇ!…やめ、ちょ……っ石田!痛い痛い!」

「ひ弱だな貴様は。すぐに疲れる上、これしきで痛みを訴えるなど」

「うっせぇバカ!こんな酷くされたら誰だって痛いっつーの!」

「私が知るか。凡人は理解し難い」

「I feel sick!!いちいちムカつくぜ!」


これではまるで、俺の方が駄々をこねるガキみたいだ。
ふと気付いて、途端に恥ずかしくなった俺は抵抗をやめた。
これ以上騒いだって、結局は何も解決しやしない。自分の恥を晒すだけならば、いっそ腹を括るしかないんだ。


「…伊達?」

「もう、いい。分かったから。ちゃんとついてくから…」

「……」


これ以上押し問答しても埒が明かない。俺は仕方なく立ち上がり、羽織に着いた砂や草をはたき落とした。
だが、俺が行動する意思を見せているのにも拘わらず、石田は掴んだ手を離そうとしない。


「いつまで掴んでんだよ。離せ」

「すぐに行方不明になる上サボる輩を野放しにできるか。このまま行く」

「HA?!おい、何でそんな…」

「ぐだぐだ言うな。斬滅してやるぞ」

「Siht...」


終わった。完全に終わったぜ俺。
既にあのspeedについていけてないのに、腕を引かれたまま走られたらどうなる?
足が縺れて、転んでも。気にも留めない石田に引きずられていくのがオチだ。
そんな怪我の仕方、恥以外の何者でもない。



石田が走り出す。

とりあえず、俺も合わせて足を動かす。


するとどうだ。転ぶことを覚悟していたのに、それらしき兆候は一切無い。
どうやら石田の奴、俺にペースを合わせてくれているらしかった。


「転ぶなよ」

「…転ばねぇよ」


これが、石田三成という男なりの不器用な優しさなのだと気付き、俺は俯いた。
紅く火照った頬を隠すために。





***おまけ***


「…なあ、石田」

「何だ」

「俺の腕掴んで、刀も鞘に入れたまま手に握ってたら、戦えなくね?」

「……」

「もう離してもOKだぜ?」

「………断る」

「………」
(て、照れるじゃねぇかよ…)

「………」
(ようやく見つけた口実を、このまま捨てられるわけがない)





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色々すみません(^^;)みっちゃんは政宗さまに触りたかったっぽい、という話(笑)

みっちゃんをプレイしてるとき、政宗さまを仲間にしていてふと疑問に。
みっちゃんの方が移動速度速いのに、政宗さま後ろからしっかりついてきてるから…

多分真相はこんなん(笑)ワシ夢を見すぎである。



お題提供→ひよこ屋様

「ふたり05」から抜粋



2010.10.13


あきゅろす。
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