三度の飯は君の味(三政)

城へ戻ってみると、そこには何故か、今はいるはずのない美しき竜が待っていた。
そして眼下には、大量の馳走が。

どういうわけか、私は自分の城で大歓迎されているようだ。










【三度の飯は君の味】










「…政宗。何故貴様がここにいる。そしてこれは何のつもりだ?」

「Welcome home!お帰り三成。nice timingだな。ちょうど支度が終わったところだぜ」

「質問に答えないか」

「野暮言ってねーで、まあ座れよ。ほらこっちこっち」


いつもより少し幼い笑顔を浮かべる政宗は、部屋の入口で呆然と立ったままの私の腕を引き、豪華な料理が並ぶ食卓の前へと誘う。

政宗はと言うと、濃紺の袴姿に襷を掛けており、本当に先程まで立ち働いていたようだ。
仕事の邪魔にならぬようにと袂を上げているおかげで、白い二の腕が剥き出しである。
なかなかに情欲をそそる眺めだが、本人には全くその自覚がないらしい。
私を上座へ座らせた後、小鉢や盃などを傍らに添えて、無防備にも隣へ腰を下ろしてきた。


「…おい」

「一仕事の後は、しっかり食えよ。まずは乾杯からだ。酌してやるからこれ持ちな」

「あ?ああ、…」


有無を言わさず盃を握らされた。

銚子をそっと握り、静かに酒を注ぐその立ち振る舞いに息を飲む。
普段、六の刀を操り暴れているとは思えないような洗練された手つき。それは、見る者を魅了させる不思議な力があった。


「毎日お疲れさん」


いつの間にやら自分の盃にも酒を注ぎ終えた政宗は、それを私の盃と軽く合わせ、そのまま一息に飲み干した。

政宗に続いて少しずつ酒を口にしながら、はぐらかされるとは思いつつも再び尋ねてみる。
何故、政宗が大坂にいるのか。
そして、この料理は一体何なのか。

それを聞くと、先程まで笑みを浮かべていた政宗は突然無表情を作り、我慢の糸でも切れたかのように左目から一粒涙を落とした。
美しい宝石のようなそれは、ぽろぽろと零れ続ける。


「どうした。何故泣く?どこか痛いのか?」

「違……俺……っ」


正座した膝の上に乗せられた拳は、固く握られたまま。
俯いてしまった横顔からは、眼帯と長い前髪で表情が読み取れない。


互いに無言が続く中、震える背を摩ってやっていると、ようやく政宗が口を開いた。
だが、こちらを向いてはくれない。


「…心配だったんだ」

「何がだ」

「あんたが」

「私が?何故」


それは、予想だにしなかった答えだった。
自分では、心配される要素など一つもないつもりなだけに、理由が一切の不明である。


「聞いたんだよ…あんたが全然飯食ってねえって」

「それは…」


刑部か。刑部の奴なのか。余計なことを漏らしたのは。
私自身、食には殆ど関心がなく、稀に気が向いたときだけしか口にしない。
だが、私にとってはこれが日常であり、何の問題もないのだ。

そのことについては、当然刑部も知っている。奴は何も口出ししてくることはなかったが、まさか影から手を回していたとは。
おかげで政宗に余計な心配をかけてしまったではないか。


「だから俺…三成のために頑張って美味い飯作ろうと思って…」

「これは全て、お前が作ったのか」

「ん……。いきなり来て、こんな…迷惑、だったよな…ごめん」


しょぼくれる政宗の隣で、私は手を合わせた。


「いただきます」

「…え?」


一礼してから箸を取り、飾りまで丁寧に作り込まれた素晴らしい料理を一口ずつ、大事に食していく。
見た目もさることながら、味もまた絶品だった。
それだけではない。
私のために一生懸命料理をする姿を思い浮かべると、次々と湧き上がる愛しさ。

こんな感情を抱けるのは、お前だけだ、政宗。



「美味いぞ。お前は料理の天才だな」

「ほ、本当か…?」

「ああ。お前も食べてみるがいい」

「I see. それじゃ、いただきます」


少し赤くなってしまった目元に、ようやく明るさが戻った。
二人で肩を並べる食事は最高なものだと、今更ながらに気付く。


お前の手料理なら、毎日食べてもいいくらいだ。










(毎朝私の味噌汁を作ってくれないか、とは流石に照れ臭くて言えなかった)



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「毎朝俺の味噌汁を〜」は、古典的プロポーズ(笑)

大谷さんのストーリーをやってみると、三成萌えがあったので!
ごはんを食べないみっちゃんに、友人である大谷さんを大事にしてるみっちゃん。

そんな彼だから、好きな人はとことん大切にすると思うんだ!
そして拒食症(というか、食べる気がないだけ)な彼氏のために、頑張ってごはん作る健気政宗さまに非常に萌えまする。



2010.8.27


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