[携帯モード] [URL送信]

魔石[小説]
あなたの髪が長い理由



ふと気付いた事を聞いてみる。
そんな何気ない会話、自分だけの特権。

「カナタの髪は長いね」

立てば膝まで伸びた彼の赤い髪は、癖がついていながらも好んで伸ばしている様だった。
カナタはそれを自慢げに

「だろ〜♪初恋の娘が『長い方が好きだ』って言ってたから伸ばしてんの」

と、にやけながら言う。
いつも通りの冗談である。
話題に登場した初恋の娘の台詞には誰の≠ェ抜けている。台詞は実際に彼女が言ったのだろうが、それはカナタの髪でなく、彼女の『髪を伸ばしたい』と言う意思が有っての呟きだったのだろう。

「ふぅん…。で、本当は?」
「えッ!!?俺の惚気話は聞いてくれないの!?」
「興味ない。そもそも何で伸ばしてるの?邪魔そう、切ってあげようか?」
「シアンに触られる位なら他を当たるよ」

彼が名を呼ぶだけでも、嬉しかった。相手の中には確実に自分が存在しているのだと、何度も思った。
少し馬鹿にされても冷たくされても、自分に対しての愛嬌なのだと思うと、それだけで満足出来た。

「願・掛・け!」

カナタは刻み込むように教えてくれた。

「願いが叶うまでは切らないつもりだ」
「へぇ…地味だね」
「地道と言え」
「伸ばして何年目?」
「6年目」

その割には案外髪が長い。
しかし、その疑問はカナタの付け足したような『エロいから』の一言で解決した。

「願掛けで髪伸ばすより、断食した方が効果ありそうじゃない」
「死ぬ死ぬ死ぬッ!途方も無い願いに食事賭けられねぇよッ!伊達に6年の長年伸ばしてねぇって!!」
「じゃあ願いは何さ」
「友達100人出来ますように」
「はっ、切実だね」

鼻先で笑ったけれど、決してカナタを馬鹿にしたつもりは無い。苦そうに且照れ臭そうに笑う彼をみると、本当な気もして来た。

「笑うなよ〜、6年の賜物だぜ?」
「…エロさで伸びた髪が?」
「皮肉なお言葉で」

そう返されたカナタの笑顔にも皮肉さが混じっていた。
飾らない笑顔を、彼はごく一部の人だけに見せる。限られた人の特権。

「髪とかけて友情と解く。その心は?」
「自分を彩るスペシャリスト」
「そりゃ大層髪に命かけてるね」

そんな彼の人生に関わって、人生を彩るお手伝いが出来るのも、僕だけの特権。

・+・+・+・+・+・+・

〓登場人物〓

■カナタ
└赤い長い髪をもつ17歳の青年。冗談ばかりをいうお調子者。

■シアン
└カナタを慕う14歳の少年。人間不信で、自分の居場所を探している。

《次》
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!