「みょうじさん」
『あれ、ヅラじゃん』
「ヅラじゃない、桂だ」
君に捧ぐ空
08:暗黙ルール
(いっぱいありそう)
「あん?お前、コイツと知り合いなのか?」
1時間目も終わって(まあ、授業なんてしてないけど)今は休み時間。たとえクラスからクラスの変更だったとしても、珍しいからか、わいわい騒がれている。
あたしの机を囲む3Zメンバーの中には、意外と知ってる人が多かった。
『やだなあ、土方。あたし生徒会長だよ?委員会入ってる人なら、多少なりとも面識くらいあるって。ね、ヅラ』
「ヅラじゃない、桂だ」
『似たようなものでしょ』
「そうですねィ…“女王様”」
『な……っ!』
本日2回目のあだ名を呼ばれて、思わず横を向く。
声の主である沖田は、ニヤニヤと口元を吊り上げて笑ってる。なんでコイツがあたしのあだ名知ってんの。
「女王様?なんだそりゃ」
「みょうじのあだ名らしいですぜ。性悪なアンタにはぴったりでさァ」
『あんただけには言われたくないんだけど!ていうか、何でそれ知ってんの!?』
「山崎に聞きやした」
『ジミィイイィィ!!』
「ぎゃああああああ!!!」
最っっ悪だ。沖田だけは知られたくなかったのに……!
メガホンを取り出して、教室の真ん中で叫ぶ沖田に小さく頭を抱えた。
「ちょっとみょうじさん」
『え?ああ……猿飛さん、だよね。保健委員の』
「さっちゃんでいいわ。それより!」
『う、うん…(なんで怒ってるんだろ)』
バン!と机を叩かれたことに驚きながらも、急に登場したさっちゃんの方に身体を向ける。
「悪いけど、銀八先生は私のものよ!横取りしようなんて考えないことね!」
『…………は?』
いきなり何言い出すの、この子。
「それに、銀八先生はドSなの。ドMの私との方が相性からしていいんだから!」
『…………』
どうしよう。
心底どうでもいい。
と、いうか…なんであのやり取りであたしがアイツを好きってことになるのかが最大の謎だ。
“恋は盲目”の代表例だな、思わずと苦笑いになる。
「あの人は誰にでもあんな感じだから、気にしない方がいいよ」
『あ、君はさっきの…』
「志村新八っていうんだ。よろしくね」
『こちらこそ』
ああ、やっとまとも(普通)な子に出会えた。
机の横で敵対心むき出しにして熱く語り始めたさっちゃんはとりあえずスルー。
どうせなら、価値観のあう人と話したいもんね。
(………って、志村…?)
聞き覚えのある苗字に首を傾げる。
「?どうかした?」
『新八くんってさ、妙ちゃんのいとこか何か?なんとなく顔つきも似てるし…』
「あ、うん。姉弟なんだ」
『じゃあ双子?』
──────バキッ
『…………』
何気なく呟いた一言に続くように、前の席から大きな音がした。
恐る恐る顔を向けると、机を真っ二つに割ってる妙ちゃんの姿。
にこり、と微笑んではいるけど、目が笑ってない。
「なまえちゃん、世の中には知らなくていいこともあるのよ」
『そ、そうみたい…だね』
妙ちゃんと新八くんの関係にはツッこんじゃいけない。
3Zの暗黙ルールが1つ分かった。
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