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この腕だけじゃ足りなくて(銀高)

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窓から穏やかな風が入り、髪を揺らす。日差しがゆったりと差し込み、眠気を誘う。

季節はもう春になろうとしていた。


「銀八ィ」
「………」
「おい、寝てんのか?」
「…起きてる」

はっきりしない声にはまるで説得力がない。
高杉は重そうに瞼を上げる銀八に苦笑し、自分の作業を再開した。


高杉の横に積み上げられているのは一流の大学名が書かれている赤本や、試験対策用の問題集。
全て銀八が与えたものだ。

『勉強付き合ってやっからやってみろ』と。


別に高杉は勉強が好きなわけでもなく、進路にも興味はないのだが、銀八が付き合ってくれるというのは捨て難いものだった。

おまけに問題集を一冊終わらせれば何でも好きなことをしてもいいというご褒美が付いている。

これに乗らない手はなかった。


銀八は放課後や休日、いつでも時間を割いてくれた。確かに構ってくれるわけではなかったが、高杉には十分だった。



最初はさらさらと問題を解いていた高杉の手の動きが鈍くなり始めた。

「眠ィ…」

銀八と同じように下がってくる瞼を必死に持ち上げようとするが、どうしても下りてきてしまう。

「畜生っ…」

頭を大きく振ってみても結果は同じで。


結局高杉は睡魔に負け、意識を手放した。





◇◇◇



高杉が再び目を覚ますと、窓から差し込んできた赤い夕焼けの色に目が眩んだ。

そして、はたと気付く。
自分が先程と違う場所にいることに。


体から感じる温もり。
耳から伝わる鼓動。
頭を撫でる手の感触。
漂っている甘い匂い。


「…銀八?」

自然と口から彼の名が出て来た。

髪を撫でていた手が、頬に触れ、鬱陶しい髪を耳にかけた。


「おはようさん」

顔を覗き込むようにして銀八が微笑んだ。


「なんで…」
「机なんかで寝たら腰とか痛めるだろ。だから銀さんが特別に安眠用銀八チェアを貸してあげたの」


高杉の頭が次第に覚醒し、状況が飲み込めてくる。
ようやく高杉は理解した。


「テメェ…下ろせ!」
「ご利用を中止される場合にはこの唇に口付けを、」
「するか!」
「いだだだだっ!」


銀八の上から下り、高杉は筆記用具を片し始めた。

「釣れないなぁ、晋ちゃん」

腫れた頬を摩りながら銀八は子供のように言った。

「今すぐ死ねや。このセクハラ教師」

高杉は銀八をキッと睨みつける。ただ頬の赤みを隠し切れていない。


高杉がさっさと教室から出ようとすると、銀八がポンと頭の上に手を乗せた。

即座に苛立ちを含んだ目が向けられる。
銀八は髪をくしゃくしゃにして誤魔かし、最後にもう一度ポンと置いた。

「お疲れさん。気をつけて帰れよ」


屈託のない笑みに、高杉はプイと顔を背けて歩いて行ってしまった。

銀八は嬉しそうな笑みを浮かべ、高杉の背中を見送った。


「やべえ、俺、卒業式泣くわ、コレ」




−−−−−−−


高銀を書くはずがいつの間にか銀高に…!

なんだかんだで自分が銀高好きなことに気付きました(笑)


晋ちゃんは隠れた優等生だと信じております^^



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