[携帯モード] [URL送信]
盲目的快楽本能(銀高)*
盲目的快楽本能(銀高)*。触れた感覚より光の見せる姿に目を奪われ、聴覚および嗅覚は二の次三の次だ。しかし、もしその視覚を奪ってしまえば。好奇心の強い少年たちがその答えを知るのに時間はかからなかった。
光の弱い三日月の晩。銀時と高杉は、桂や坂本たちのいる古寺からこっそり抜け出し、しばらく歩いた先にある小屋へと忍び込んだ。

若い彼らはどうしても欲を持て余してしまう。たびたび遊郭に行くことはあるといえど、そう頻繁に行けるものではない。女を引っ掛けようにも周りは汗臭い男ばかりだ。だが堪えきれるほど大人でもなかった。そうとなれば、少しでも見目のいい男を抱くしかない。
当然まず狙われたのは高杉で何度も襲われそうにはなったものの、それを彼が許すはずもなく返り討ちに遭うものが後を絶たなかった。しかし唯一許しを得たものがいる。――銀時だ。
銀時もそういった連中に行為を求められることがあったが、彼はそれを拒まなかった。同意の上であるならば彼は抱こうが抱かれようが、質悪く溜まる欲望を発散できるならそれでよかった。しかし銀時は飽きてしまったのだ。彼らとの行為はあまりに呆気ない。特に大物を斬った後の昂りはいくら白濁を吐きだそうと収まるものではなかった。
「足りねェ…」
誰もが満足して眠りについたというのに、自分は一人苦しめられる。斬ってどうにかなるものでもない。銀時は苛立ちを抑えることも出来ず、寝静まった廊下を大股で歩いた。
すると、どこの部屋だろうか。中から押し殺すような声が聞こえてきた。傷に苦しむような声ではない。快感に溺れた時に発せられる艶やかな声だ。
「…んッ…はぁ…あ」
銀時は今まで感じたことのないような興奮を覚えた。聞こえているのは間違いなく男の声だというのに、体は確かに昂っていることを訴えてくる。あれを抱いたらどうなるのだろう。この欲求不満を埋めてくれるだろうか。哀れにもそんなことを考えてしまう自分が憎い。しかし銀時は迷うことなく襖に手をかけていた。
銀時は生唾を飲んだ。
大胆に肌蹴た寝巻。畳の上で乱れる湿った髪。悶える脚。欲に濡れた目。そして必死に自身を扱く右手。彼はまだ銀時の存在に気付いていなかった。迫りくる絶頂に身を委ねようと、力の抜き方も分からずただ我武者羅に本能に従った。
「…ンンッ!…くッ…」
しかしあと一息というところで快感が足りないらしく、金魚のように口をはくはくさせては体を震わせる。彼の右手は汗と先走りでべたべただった。
銀時にはその気持ちが痛いほど分かってしまった。それだけではない。視覚的な毒に完全に犯されていた。この男を抱きたい。それだけが脳内を埋め尽くしていた。
「下手くそ」
銀時は自嘲気味に笑いながらそう言うと、男の背後から手を伸ばした。自分より一回り小さいそれを男の手の上から重ねる。自分が悦いところを思い出しながらそこを刺激すると、男は先ほどより高い嬌声を上げた。
「ッ、はぁ…!あ、ああ…っ」
「ほら、イっちまえ」
鈴口にぬめりを広げながら親指を捩じ込み、とどめとばかりに爪を立てれば、男はぎゅっと目を瞑りながら果てた。
ようやく得られた絶頂に男は体を弛緩させる。意識が戻ってくるのを感じながらゆっくりと目を開くと、男は銀時の存在に気が付き驚愕した。
「…ぎんと…き?」
僅かに声が震えている。銀時は自分の中の雄の本能がもうそこまで来ているのを感じた。
「よォ、高杉。随分ヨさそうだったじゃねーか」
いつものようにからかうよう言ったつもりだったが、裏に潜む本音が隠せられた自信がない。男――高杉は眉間に皺を寄せる。彼は銀時を拒まなかった。
「てめェも足りてねーんだろ。生憎経験はねーが、相手してやるよ銀時」
高杉もまた飢えた獣の一人だった。普段ならたとえ幼馴染である銀時であろうと高杉は断っていただろう。しかし今日ばかりは銀時同様高杉もまた昂っていた。一度吐き出した程度では物足りない。もっと強い快感に当てられたかった。
銀時は舌なめずりをすると、高杉の唇にしゃぶりついた。

それから銀時は高杉以外を抱けなくなったし、抱かれようとも思わなくなった。要は高杉との行為に溺れてしまったのである。
初めて高杉を抱いたあの夜、銀時はまるで初めてその行為をした時のような新鮮さを味わった。熱っぽく吐かれた息に心臓が跳ね、いやらしく強請る四肢に血液がどっと流れた。あれほど興奮したことは無かっただろう。翌日朝を迎えても収まらないほどに興奮した。
高杉の様子は傍から見れば特に変わった様子はない。銀時はもう抱かせてくれないかもしれないと焦っていたが、時折こっそりと誘ってくるので内心舌なめずりをしていた。


「お前の趣味はわからねェな、銀時」
腰帯で目を覆われた高杉が言う。銀時も同じように目を覆って、言う。
「視覚が奪われるとなァ、感度が上がって気持ちよくなれるらしーぜ?」
快楽への好奇心が半分と猜疑心が半分といったところか。高杉はいつも通り何も使わず普通に終わらせてくれればそれで満足だったのだが、相方の銀時がそうしたいというなら仕方ない。憎らしいことに自分一人では何も出来なくなっている自覚はあった。
誰もいない空き家の畳の上で、布団も敷かずに膝立ちで向かい合う。目隠しされているためお互いの顔は見えない。果たしてアイツはそこにいるのだろうか。確かめるなら手を伸ばすしかない。
銀時はにゅっと手を伸ばすと顔であろう場所に触れた。何度も高杉に触れ、唇の位置を確かめる。少し湿った唇独特の感触を肌で感じると、おぼつかない動きで自分のそれと合わせた。
「…ンっ」
突然重ねられた唇の感触に高杉がびくりと肩を揺らす。数を数えるのも嫌になるほどしてきた接吻がもっと別の行為に感じられた。
合わさってしまえば後は感覚を頼りに舌を動かすだけで、舌下に舌を差し込んだり、歯列をなぞったり、舌同士を絡ませてみる。咥内の動きは見えようと見えまいと対して変わらない。ただ、肩へと伸ばした腕が空を切ってなかなか肩に届かないのはもどかしくて焦らされる心地がした。
先に焦れたのは高杉だった。口端から唾液を垂らしながら、銀時の肩から指の感覚を頼りに首に触れる。汗でしっとりと湿ったそこを高杉は舐めた。誘うようにゆっくりと舌を滑らせる。喉仏を執拗に攻めると、銀時が舌打ちをして動いた。
「おっまえなぁ!」
「だから言ったじゃねーか。趣味悪ィってよォ」
高杉が片方だけこっそり帯を下げると、自分の胸に狙いを付けた銀時の姿が見える。乳輪をねちっこく舐める銀時に、さっきのお返しのつもりなんだろうと笑った。しかし銀時の舌によって快感を感じてしまうと、視界も毒に変わる。高杉は声を漏らして再び帯で目を覆った。
銀時の息が荒い。はぁはぁという音と、肌に触れる湿った吐息。それだけでびくびくと震える自分の体が恨めしい。
「楽しそうだなァ、銀時」
「そりゃアお互い様だろって」
減らず口が利けなくなるよう唇を塞いでしまいたかったが、位置が分からないならやむを得ない。銀時は身を屈めると、高杉の下半身に手を近づけた。
「あ…ッ」
脚に触れるつもりだったが、そのまま性器に触れてしまったらしい。まあいいか。銀時はいくらか硬さをもったそれを口に含んだ。
「ッ?!ん、ンあっ…!」
訪れた生温い感覚に高杉が跳ねる。反射的に口を手で覆い、腰が下がってしまうのを必死に堪えた。
視覚からの情報が入ってこないと、皮膚からの感覚だけでなく耳や鼻からの感覚にも敏感になるらしい。銀時は高杉の太腿に手を這わせ、漂う雄の匂いを嗅ぎ、上から響く声を聞き、ああ高杉は今感じているのかと思った。それらは確実に中心で熱を集めることを促していた。どこまでこの興奮に堪えきれるだろう。銀時はしゃぶることに集中し、自分の中で高まる温度を無視した。
「ぎ、ぎん…ッ!も…離せっ…ッ」
畳についた膝が笑っている。脚に力が入らない。高杉は無我夢中でもがき、見つけた銀時の肩を強く掴む。それでも力がまともに入らない手では支えきれず、落ちてしまう腰を銀時が臀部を抑えて止めた。
そろそろ頃合か。銀時は鬱陶しく自分の視界を奪う帯を剥ぎ取った。高杉の腰を上手く支えながら口淫を再開する。右手で根元を擦り、最奥まで口の中へと迎え入れる。限界は近い。口を窄めて圧迫し、いきり立ったそれを素早く出し入れした。
「あっあッ…っンン…はっ…ああ…ッッ!!」
高杉が声を上げて達した。よほど気持ちよかったのだろう。普段なら口淫ぐらいでは外に聞こえてしまうほどの嬌声は上げない。
銀時は高杉を押し倒すと、余韻に浸る時間も与えず後孔を解し始めた。銀時だってもう限界だ。先ほど出した白濁を孔に塗りたくり、半ば無理矢理指を捩じ込む。痛みさえ快感に感じられてしまう高杉はもう啼くしかなかった。
「はぁっ…ま、て…ぎん…っ」
「気持ちイイんだろ…?もっとヨがっとけッ」
銀時の次の行動が読めない。全てが突然で、全身を満たしていく。まだ解しきれてないというのに指を増やされ、手荒に中を掻き回される。高杉は首を振り、四肢を強張らせることしか出来なかった。
もう、無理だ。
そう思った矢先に中から指が抜かれ、視界が明るくなった。帯が取られたらしい。目が追い付かず明るさにまだ慣れていないが、ぼんやりと銀時の顔が見える。過度な快楽によって恐怖さえ感じていたにも関わらず、そこに銀時がいると実感できただけで妙な安心感を覚えた。
「…いいか?」
銀時らしい阿呆みたいな優しさに高杉は頷く。それを合図に銀時の性器が高杉の中を一気に貫いた。
「はぁ…ああッッ!!」
「馬鹿ッ!力抜け!」
銀時は強すぎる締め付けに脂汗を滲ませながら、中を傷つけてしまわぬようゆっくりと腰を動かす。抜き差しを繰り返しているうちに高杉の息が落ち着いてきた。
「大丈夫か?」
「ふっン…、ぎん…」
「晋助…」
「…早く…おわらせろ…」
「りょーかいッ」
最奥を突くのは気持ちいいが高杉の負担が大きい。銀時はなるべく手前側にある性感帯を狙って突き入れた。ごりごりと音がしそうなぐらいに激しく圧迫される。高杉の先走りの量がどっと増えた。
馴染んでくると程よい締め付けが銀時を襲う。この締め付けこそ銀時を虜にしたものだ。締め付けすぎず緩すぎない。性感帯を狙えば心地よい嬌声が鼓膜に沁みる。癖にならないはずがなかった。
「あッ…ンン、はっ…あッあッ」
「…はぁ、はぁ…ふン…ッ」
身体が震える。鼓動が速い。頭の中がどんどん白く霞んでいく。
もう少しだけこの快楽の中に溺れていたかったが、本能は絶頂を目指し上へ上へと昇らされる。熱さで焦がされてしまいそうだ。口からどんな言葉が発せられているかなんて分かりゃしない。
「っあああッッ!!」
「…ンンあッ!」
それぞれに声をあげ、少年たちは白濁を吐き出した。

翌日、先に目を覚ましたのは銀時だった。高杉は鬼と呼ばれているのが嘘であるかのように安らかに寝息を立てている。
寝る前に下がる瞼に抗いながら中に出したものを掻き出したが、まだ僅かながら残っているだろう。高杉が目を覚ましたら川にでも行って洗い流さなければならない。
「高杉」
銀時はあの日高杉を初めて抱いたことを時折後悔することがある。彼をごく普通の友人から、こんな関係にしたくなかった。本来ならもっと、別の感情で彼と付き合うことが出来たのではないだろうか。
「やっぱ好きだ…」
抱く前からそう思っていたのか、抱いてからそう思うようになったのか全く見当がつかない。彼にそう伝えたところで困らせてしまうことは分かっているのだ。それならばいっそ捨ててしまおう。捨てる当てはないけれでも。
高杉の髪を慈しむよう撫でる。今だけは目を覚まさないで欲しい。
「銀…?」
「あれ、起きちゃった?」
ハッとして銀時は手を引くが、高杉はそれを逃がさぬよう掴んだ。
「撫でろ」
「え?」
「撫でろっつってんだ」
寝起きのせいで機嫌の悪い高杉に、意味を探る暇もなく銀時は再び高杉の頭を撫でる。それだけだというのに酷く落ち着いた。
高杉は二度寝にでも入るつもりなのだろうか。されるがままになって目を閉じている。
自分がどうしようもない馬鹿のせいなのか高杉の考えていることは全くといっていいほど分からなかった。聞いた言葉を鵜呑みにすることしか出来ない。
もう少し側にいたら分かる時が来るだろうか。銀時はぼんやりと心に疑問を浮かべながら目を閉じた。


[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!