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心臓は何処?(威高)

*威高



あの男は馬鹿なのだろうか。
神威はわざとらしく水溜まりを踏み付けている。刻みよくばちゃばちゃと水面を叩き、靴を濡らして進んでいく。その後ろを、高杉は静かに歩いていた。
空はまあ晴天と言ってよいだろう。昨日はよく雨の降る日であった。残った水滴が日の光を反射して煌めく。目が眩むほどではなかった。辺りに人気はなく(それ故彼らはここにいるのだが)、鳥の声一つしない。洗い立ての殺風景な籠の中に放られたようだ。決して狭くはない。彼らには、十分過ぎた。人々の雑踏の中に紛れる術を、もう忘れていた。

「珍しいネ。アンタがそんなにゆっくり歩くなんて」

雨は止んでいるというのに傘をさし、振り返って青い目を覗かせる。高杉は透き通った青を一瞥し、翠玉のような目を瞼で覆った。確かな拒絶。己に内在する光が、消されてしまわないように。嫌悪ではなく、僅かな恐怖だった。

「…先に行け」

故に、遠ざける。讃える裏で蔑み、驕る裏で見下す。どうか、近付くな。

飽きたように神威は傘を放り、白い肌を太陽に晒す。にこにこと微笑む姿に、眩むような憎悪を覚えた。しかし、どこか奥ゆかしく、歯痒い。たなびく桃色の髪が、桜に見えたからだろうと押さえ込んだ。

「行かないヨ。アンタを置いてくなんて勿体ない」

笑った時に見せた犬歯が、視線が、もう人間のそれではなかった。驚きはしない。一目見た時から気付いていた。

すとん、と間合いを詰められ、殺意を滲ませた目が眼前でちらつく。喉元に白い指が触れた。怒り、か。それとも、嗤い、か。

「勝手に死ぬなんて許さない」

綺麗すぎる空の下、水溜まりの拡がる地に人影はない。立ち去ったのか、死んだのか。またいずれこの地にも、曇天が訪れる。



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どちらかと言えば両想い威高

ピュア高杉でした


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