夢物語を紡いでよ(高威)
*高威
*神威が盲目設定
突然何も見えなくなった。一言で言うなら闇。さらに付け加えるのなら、無。物を触っている感触はあるのに、物が見えない。
胸に手を当てれば確かに鼓動が感じられて、とりあえず生きているんだと実感する。とりあえず、だけど。
「シンスケ」
どこにいるの?ねぇ、どこにいるの?
俺は夜兎だから、力は人間以上だけど、鼻だって耳だって人並みだ。超能力が使えるわけでもない。
あ、俺って、弱いんだ。
知ってたよ、多分。多分、知ってた。でもみんな殺せちゃうから信じなかった。殺せるから俺は強いって思ってた。本当は弱いんだよ。手、震えてるし。
「どこにいるの、かな…?」
アンタはどんな匂いだったのかな。どんな声だったのかな。どんな足音で、どんな感触だったのかな。
目に頼ってばかりで、左目を覆った包帯と綺麗な黒髪しか頭になくて、アンタのこと、あんまり知らなかったみたい。
だからね、どうやってアンタを見つければいいのか分からないんだ。
「シンスケ」
ポツリポツリと、口から零れるのはアンタの名前で、それだけしかなくて、俺って馬鹿だなって思った。来るはずないよ。俺がアンタを知らないように、アンタも俺を知らないはずだから。馬鹿だね、俺。アンタが俺を呼んだことなんて一度もないのにサ。
「……誰?」
気配。人の気配だ。ピリッと殺気が混じった視線。俺を殺すつもりなのかな?ほとんど死んでるみたいな俺を。
視線は貫くみたいにずっと俺を見ていて、なんか心地好い。俺が、見えるんだ。
「…てめェ、そんなツラする奴だったか?」
うわ、恥ずかしいなソレ。俺今どんな顔してるの?
「じゃあ偽物だと思ってよ。アンタが知ってる誰かの顔したフェイク」
「フェイク、ねェ…」
そっと首筋を撫でられて、体が固まる。赤子みたいにどうすることも出来なくて、手を伸ばして触れたその温もりを、シンスケと呼んだ。
「あァ?」
「…だったらいいナって」
そうしたら不思議と体から力が抜けた。猫だったら喉を鳴らしてるかもしれない。そんなのありえないと分かっているけど、想像だけなら別にいいんじゃないかな。
ガリッと唇を噛まれ、
「なら今だけ『シンスケ』でいてやる」
って。
少し痛む唇に触れて、流れていた生暖かい液体を、無性に愛しく感じた。
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