[携帯モード] [URL送信]
君と僕の前提条件(高銀)

*3Z



澄み渡った空だった。
雲なんて不粋なものはそこになく、一面真っ青に広がっている。どこからが地で、どこからが天かなんて知ったことではないが、無心で見上げるにはもってこいの景色だった。
柔らかい風が銀八の白銀の髪を緩やかに撫でた。銀八は教室の窓に肘を掛けながら、グラウンドへと視線を移す。見知った顔は、ない。もう、皆旅だってしまった。
――ただ一人を除いて。

「アイツ、卒業式来ねェとか絶対バカだろ」

髪を掻きながら一人ごちる。バカなのは知っていた。ただ、卒業式に来ないほどバカだとは銀八も知らなかった。もしかしたら卒業式の日にちを間違えて伝えてしまったのかもしれないが、それを知らない時点で卒業する権利などない、というのが銀八の持論だ。

雲雀の喧しい鳴き声が頭上から響いている。銀八は右手に持ったリボン付きの黒い筒を見遣り、溜め息をついた。
――今日も来ないか…。
決して待っているわけではない。渡さなければ仕事が終わらないのだ。

すとん、と。

銀八の頭に何か軽い物がぶつかった。気付いた銀八が頭を揺らすと、それは地面へ向かって落ちて行く。――紙飛行機だ。餓鬼だなァ、と苦笑しながら、そっと上を見る。この校舎は4階建てで、この教室は4階。つまり、銀八に紙飛行機を当てるためには――屋上に行くしかない。銀八はハッとして、慌ただしく教室を出た。


◇◇◇


「高杉ッ!」

屋上の重い扉を壊すような勢いで押し開け、いるであろう青年の名を叫ぶ。そこにはやはり――高杉がいた。

「遅ェじゃねーか、銀八。そろそろ歳かァ?」
「うるせェ…」

黒い髪。左目の眼帯。赤いシャツ。嘲笑うような笑み。間違いなく高杉だ。
銀八は乱れた呼吸を整えながら高杉へ近付いていく。高杉は銀八の右手にある筒を一瞥すると、すかさず掠め取った。

「ちょ、せっかく俺がちゃんと渡してやろうと思ったのに」

高杉は筒の蓋をポンッと音を立てて外し、中に入っている紙を抜き取る。適当に拡げ、仰々しく書かれた文字を目で辿り、あからさまに肩を竦めた。

「こんなもん貰ってもしょうがねェな」
「それねぇと、ただの中二になるぞ、お前」
「死ね」

高杉は銀八から顔を背け、紙――卒業証書を真っ二つに引き裂いた。銀八の制止の声も聞かず、どんどん割いていく。あっという間に紙切れになり、風に乗って何処かへ飛んでいってしまった。

「…お前なぁ…」
「卒業なんてしてたまるか」

呆然としている銀八に、鋭い視線が注がれる。

「俺は此処に残る」

睨むようなその視線に、銀八は瞬きも忘れ、見入っていたが、ようやく言葉の意味を飲み込んだらしく、目の色が変わった。

「は?!お前何言って、」
「先生面でもする気かァ?なら生徒の意志を尊重しろよ」

高杉は口元を綻ばせ、銀八のネクタイを引っ張る。近付いた銀八の唇にそっと自分の唇を合わせ、ネクタイを解放した。

「…高杉」
「また会いに来てやるよ、銀八」

気付いた時にはバタンという扉の音が鼓膜を震わせていた。銀八は舌打ちをして、頭を掻く。まだ残っていた紙の残骸を拾い、風に乗せて舞い上げた。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!