雨音が聞こえる(坂銀)
*攘夷時代
銀時は雨が嫌いだった。濡れると嫌な記憶が蘇るらしい。だから雨の日、彼は部屋に引きこもっている。
「辰馬、どっか出掛けんの?」
急な用務が入り、支度をしていると、銀時が戸を開けてこちらを見上げていた。
「すまんの。ちっくと行って来るき」
「ふぅん」
つまらなそうな返事をして、銀髪の少年は戸を閉める。
ここのところ大きな戦も無く、銀時は退屈していた。今日は高杉や桂も出掛けているので、銀時はずっとこのまま篭る気だろう。
「一緒に行くかや?」
閉まった戸に、坂本は声をかけた。
「雨降ってるからいい」
やっぱり、か。
坂本はボサボサの頭を掻く。用務なんてちょっとした届け物をするぐらいなので、帰りに寄り道をする時間はたくさんある。そこで銀時に甘味などを買ってあげればきっと喜ぶだろうに。
でも、銀時のことだ。甘味で釣っても「別にいい」と突っ張るだけだろう。
銀時の部屋の前で坂本は頭を抱えた。ただでさえカラと言われる頭で考えても無駄かもしれないけれど。
「……行かねェの?」
声に驚き、顔を上げてみると、少しだけ戸を開けてこちらを見ている銀時と目が合った。白夜叉と恐れられている彼だが、普段は年齢よりも幼く感じられる。
「銀が行かんちゅうなら、わしも行かん!」
「ダメだろそれ!」
銀時は咄嗟に返して溜め息をつき、あからさまに嫌な顔をした。やっぱり彼を連れ出すのは無理なのだろうか。
「…どうしても行かんのかや?」
「…行かねェ」
坂本は肩を竦め、銀時の側に立った。不思議そうに首を傾げる銀時の頭を撫でる。
「……なんだよ?」
「『行ってきます』の挨拶じゃ!」
太陽のような笑みを浮かべ、坂本は踵を返した。突然離れた温もりを、銀時は親とはぐれた子供のような目で見る。
「辰馬…」
気が付いたら坂本を呼ぶ声が洩れていて、銀時は眉をしかめた。
「銀?」
「……早く行けよ」
振り返った坂本を冷たく突き放す。
雨の音が耳に貼り付いた。
すると、坂本は何を思ったのか再びこちらに寄ってきた。銀時が拒絶の言葉を投げる前に、ふわりと彼を抱きしめ、優しく尋ねる。
「わしと行くのは嫌かや?」
銀時は無言で首を横に振った。
坂本は応えるように背中を撫でる。
「辰馬」
「なんじゃ?」
「やっぱ行く」
銀時は坂本の背中に腕を回した。
雨はもう、怖くない。
―――――――
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