ぬるま湯に浸かる男の話(高銀)
少々肌寒い季節がやってきた。だからと言えど、着込むほどでもなく、人肌が恋しくなることもない。
つまり、だ。お互いに体を合わせる理由など無いということである。
「なァ、高杉。お前、吉原とか行かねぇの?」
「お前じゃなくて、女を抱けってかァ?クク、女ってェのは抱き心地こそいいが、頭は腐ってやがる。わざわざ出向くようなとこじゃねぇ」
高杉は、雑に放られて皺の寄った着物の中から煙管を取り出し、慣れた手つきで火を点けた。
何も纏っていないが、寒くはない。これで十分であった。詰まる所、寒くなければいいのだ。
「野郎に飽きたのか?」
「べっつに。ちょっと聞いてみただけ」
「フン。行かせる気はねェからな」
「知ってる」
銀時はごろんと仰向けになり、天井を見上げた。遠くはなく、近くもない。知らぬうちにそこに有って、野放しにされた己を見下ろすのだ。
「高杉、俺のこと好きって言ってみて」
「…お前の頭も腐ってんのかァ?」
「いいから言えって」
「は?……――好き」
「…ふぅん」
銀時は臍を曲げたように、高杉に背を向ける。感じる温度は、変わらない。
「…じゃあ、嫌いって言ってみて?」
妖しく笑うその姿に、高杉は腑に落ちるところがあったらしい。
「嫌いだ」
銀時はくくっと笑った。
「お前の『好き』よりも『嫌い』のがいいな」
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