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最後のわがままです、
戒め
 

カチカチカチ。暗い室内に響く無機質な音。
シャリ、シャリ。一定の間隔で何かを切る音。
「ハァ、ハァ、」
暗い、外の街灯と月の明かりで辛うじて物の配置がわかる室内の男の息遣い。


“戒め”


「…っうあ」
ヒクリ、息を飲む。ブス、と男の足に刃物が突き刺さった。一筋の涙が頬を滑り落ちる。唇を噛みしめ、目を固く瞑り、悲しみに暮れるかのような表情で、しかし彼の心は凪いでいた。
再びシャリ、シャリと何かを切る音がする。足に刺さった刃物を抜き、その刃で足に一本一本傷を付けていく。ピリピリと、時折ズキとした痛みが走る。
その痛みで、ささくれ立つ彼の心は落ち着いていった。

カチカチカチ。再度室内に無機質な音が響く。しかし今回は先ほどより音がしなかった。男の息遣いが、無機質な音を掻き消した。
じとり、と浮かぶ汗を拭い、彼は己の足を見る。一際目立つ、刃物を刺した傷と、周りの浅目の、だが早くも血が滲む無数の傷を見て、男の呼吸は落ち着きだす。もう一度脂汗を拭い、男は立ち上がった。

洗面所に行き、顔を思い切り洗う。一回、二回。五回ほど洗い、流れ落ちる水を止めた。
「……は、ひでー顔」
鏡に映る、余りにも酷く憔悴した自分の顔に思わず声が漏れる。パチン。頬を思い切り叩き、気合いを入れた。
一度下ろした瞼をゆっくりと上げ、その時にはもう、憔悴した様子はなく、すっきりとした表情に変わっていた。





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あきゅろす。
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