catastrophe-悲劇的な結末-1
ーー胸騒ぎがする。
ティナはバスカヴィル家の広い廊下を進んでいた足を止めて空を見上げた。グレンに呼ばれて来たのだが、妙な胸騒ぎにティナは空を見上げたまま眉を寄せた。根拠も確証もない。けれど、とても嫌な予感がしたのだ。
グレンとジャックの間に不穏な空気が流れていることに気付いたのは数日前。傍目には分からないが長いこと親密な付き合いのあるティナにとっては違和感を感じさせるには十分だった。何かがあった事は明白だ。しかし尋ねてみてもグレンは沈黙、ジャックは笑顔で何でもないと否定する。これではどうしようもない。ティナは何も知らない、何も出来ない自分にもどかしさを感じていた。
暫くの間そのまま立って思考を巡らせていたが考えても仕方がないと思い、グレンのもとへ向かう為再び歩き始める。
すると廊下の柱に寄りかかっている小さな影が見えた。
「…ヴィンセント君?」
よく見ればそれはジャックの従者であるヴィンセントだった。膝を抱え顔を伏せて座り込んでいる。同じようにしゃがみこんでから名を呼べば、びくりと彼の肩が揺れた。それからゆるゆると上げられる顔。
「…ティナさん…」
「こんなところでどうしたの?ジャックとギルバート君は一緒ではないの?」
「……」
「…ここは冷えるわ。彼等の所まで送っていきたいのだけど、立てる?」
コクリと頷いて立ち上がったヴィンセントの冷え切って僅かに震えている肩に持っていたストールを掛けてから一緒に歩き始める。隣の小さな少年を見つめる。ジャックの屋敷で会った彼は笑顔で私を出迎えてくれた。あれからそんなに時は経っていない。この僅かな間に一体なにがあったのか。
「ジャック、どこにいるのかしら…」
見つからないジャックとギルバートにティナは溜め息を一つ吐く。グレンとの約束の時間には間に合わないがヴィンセントを一人にする訳にはいかない。すると視界の端に一人のメイドが見えた。
「ヴィンセント君。今のメイドさんにジャックの居場所を知らないか聞いてくるから、ここで少し待っていてくれるかしら?」
少し躊躇ってから縦に振られたヴィンセントの頭をティナは優しく軽く撫でた。
「すぐに戻ってくるから。大丈夫、もうすぐジャックとギルバート君に会えるよ」
「…はい、…ごめんなさい」
それからティナはヴィンセントのもとを離れた。そして、すぐに後悔することになる。
「ヴィンセント君……?」
いなくなったヴィンセントにティナが気付いた瞬間、
地が、揺れた。
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