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幸せ者の笑顔


「…ティナ?」
「……なあに?ジャック」


グレンの屋敷のバルコニーで恒例となった三人でのお茶会をしていた時だった。どこか遠くを見つめているようにぼうっとしていたティナに何か違和感を感じてジャックは声を掛けた。数拍置いて返事をした何時もと違うティナの様子にグレンも眉を寄せた。


「……二人ともどうしたの?」
「いや…」
「……」


声を掛けられたティナは言葉を濁しながらも自分を見つめる二人に首を傾げる。ポットを覗けば紅茶がなくなっていることに気が付いた。


「あら、紅茶がなくなってしまったわね。持って……」


そう言いながら立ち上がったティナの体がぐらりと傾いた。


「…ティナっ!!」


床に触れる前にジャックが受け止める。怪我がないか全体を見渡すがどうやら何もないようなので一つ息を吐く。だが、ティナは目を閉じて荒く浅い呼吸を繰り返していた。顔も赤く全身が燃えるように熱かった。


「ジャック。隣の客室にティナを運ぶぞ」
「ああ」


ジャックはぐったりとしているティナを横抱きにしグレンを追い掛けた。







「……ん…」
「…ティナ、気が付いたか」
「気持ち悪くないかい?」
「……グレン…ジャック…?」
「医者は風邪だと言っていたぞ」


目を覚ましたティナはベッドに寝かされていた。両サイドでジャックとグレンが自分を覗き込んでいる姿に熱に魘された状況でも少しばかり驚く。どうやら立ち上がった時に倒れてしまったらしい。話す為に起き上がろうとするとやんわりとベッドに押し返される。


「大丈夫…ごめんなさい、迷惑を掛けてしまって…」
「迷惑なんて思っていないよ。ほら、まだ熱が高いのだから寝ていないと」
「今日は泊まっていけ。どうせジャックも泊まっていくだろうしな」
「あはは、よく分かったねグレン」
「…ふふ」


二人のやり取りも頭を撫でるジャックの手も片手を握るグレンの体温も、どれもとても心地が良くて瞼が徐々に落ちてくる。


「おやすみ」


そして眠りについた。








翌日。まだ少し熱はあるが昨日よりも楽になったティナはベッドに座って苦笑いしていた。何故なら付き添っていたジャックがしばらくどこかに行っていたかと思うと戻ってきた彼の腕には持ち切れない程の見舞いの品があったのだ。話を聞けばどこからかティナが倒れたと聞きつけた知り合い達が見舞いには行けないので(グレンによる面会遮絶の為)、ジャックに見舞いの品を渡して欲しいと言ってきたらしい。


「これはギルバートとヴィンセント、こっちはアリス。ああ、これはロッティ、それがリリィからであれは屋敷のメイド達で…」
「くすくす…ありがとうジャック」


見れば花束や果物など多種多様な見舞いの品。ソファに座って眺めていたグレンも流石に驚いている様子だった。みんな心配していたよ、とジャックが言えばティナは嬉しそうに笑った。


「私は幸せ者ね。後でみんなにお礼を言わなくちゃ」
「それには早く元気ならないと」
「そうね」
「…もう少し寝ていろ」


読んでいた書物を置いて近付いてきたグレンはティナをベッドに寝かせた。


「…元気になったらこの間のお茶会の続きをしましょう」
「…そうだな」
「みんなも誘って、楽しいお茶会にしようか」





(だから早く元気になって)





「ようこそお茶会へ!」


数日後、そこにはいつも通りの彼女の笑顔があった。





あきゅろす。
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