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私と彼女とキャンディと


それは彼女にとって初めての“家族”が出来て直ぐの出来事。


「…あら?どうしたの?」
「…っ!!?」
「ああ、驚かせてしまってごめんなさい。泣いていたようだったからどうしたのかと思って…」


いきなり声を掛けられてびくりと跳ねてしまった肩にその女性はすまなそうに眉を下げて謝ってきた。私は慌てて流れていた涙を拭って頭を左右に激しく振った。それを見てその女性は少し考えて、持っていたバスケットから一本の棒が付いた何かを取り出した。確かあれはこの間ロッティに教えて貰ったキャンディとかいうお菓子だ。


「よかったらどうぞ。私の手作りなのだけど」
「あ…ありがと…」
「いいえ」


微笑む女性の前で手渡されたキャンディを口に含む。


「……おいしい!」


コロリと舌の上で転がしたそれのふわりとした甘さはまだ私が体験したことがないものだった。


「キャンディとはおいしいものなのだな!」
「ふふ、それはよかったわ。…ところでどうしてこんな所で泣いていたの?初めて見る方だけれど…」


首を傾げる女性に私は話した。最近バスカヴィルとして此処に来たこと、ロッティ達とはぐれてしまった事、自分の顔の入れ墨のせいで怖がられるのが怖くて誰にも道を尋ねられなかった事を。初めて会った人だというのが信じられないくらい私の口はすらすらと動いていた。その女性も私の話を時に相槌を入れながら静かにずっと聞いていてくれた。
暫くして話し終わった私に女性はニコッと笑った。


「分かったわ、私がロッティ達の所に案内しましょう!」
「ほ、ほんとうかっ!」
「ええ任せてくださいな。さぁ、行きましょう」


そう言って女性は私の手を躊躇いもせずに握った。話し掛けられた時もそうだったがその女性は私の入れ墨を見ても全く動じず変わらない様子で普通に接してくれた。驚きで目を見開く私にくすくすとまた笑ったその女性に胸の辺りがほわっと温かくなった気がした。


「私はティナといいます。貴女のお名前は?」
「リリィだ!よろしくな、ティナ!」


これが私と女性ーーティナとの出会い。
この後ティナのお陰で私を探してくれていたロッティ達と合流出来たが、心配をかけたこととティナを呼び捨てにしたことで何故かロッティに怒られる事になった。

「まあまあロッティ。リリィもまだ不慣れな場所だった事もあるでしょうし。それに私の事も呼び捨てでいいのよ。この際ロッティも『ティナ』って呼んでみない?」
「そうだそうだ!」
「リリィは黙ってなさい!っ…ティナ様もからかわないで下さい!」
「あら…本気だったのに、残念…」


ティナの発言に顔を赤くするロッティもそれを見て笑うファングとダグも私にとってはどれも楽しい幸せな思い出。





ーー今はもう思い出でしかないけれど。





「リリィさん行きますよ」
「うん」


漸くアヴィスから出て来た時にはあれから百年以上経っていて、この世界にもうティナはいなかった。私を呼ぶファングを追い掛けながらポケットから出した棒付きキャンディを口にくわえる。


「…おいしい」


キャンディで思い出すのはいつだってティナの優しい笑顔だった。







私をロッティ達の所へ送ってくれたティナは親友の所へ行く途中だったらしい。別れる前に私はティナに手を振った。


「ティナ!キャンディありがとう!」


ティナは笑顔で手を振り返してくれた。


「どういたしまして、またねリリィ」


ーーティナは私の初めての“友達”だった。




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