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その表情の先にあるもの

※14巻捏造&ネタバレ注意


「グレン…グレンどこにいるんだい?」


木々がひしめく中ジャックはそれらを掻き分けて己が呼んだ名の人物を探していた。ぽかぽかと暖かな陽気に包まれながら掻き分け続けていると、見慣れた黒色が木の下に座っているのを発見する。頭に何枚か木の葉を付けたジャックが近付いてみるとそこに広がる光景に彼は思わずポカンとした表情で動きを止めた。


「……」


そこにはピチチ、と鳴く小鳥を頭に乗せて木に寄りかかり目を閉じて座っているジャックの探し人であったグレン。そしてさらに彼の太股に頭を乗せて所謂膝枕という状態で寝転がっているティナがいたのだ。


ジャックは、すすすと音を極力立てずにグレンの隣にしゃがみこんだ。


「…何か用があって来たんじゃないのか」
「あれ起きてた?」


気配を感じたのだろう。目を閉じたまま話しかけてきたグレンにてっきり寝ていたと思っていたジャックは驚く。その声にティナが少し身じろいだが変わらずに肩は規則正しく上下している事からまだ寝ているようだ。


「ロッティに追いかけられているから匿ってもらえないかと思ったんだよ!」
「またか…」


今頃顔を真っ赤にさせて自分の目の前にいる金髪の青年を探し回っているであろう少女が容易に想像出来たグレンは溜息を吐く。


「ふふふ…」
「?」


なんの前触れもなく笑い始めたジャックにグレンは閉じていた目を薄く開いた。


「レイモンドに今の君の姿を見せてあげたいなぁ」
「レイモンド…ナイトレイ伯の事か」
「彼もアーサー達もまさかバスカヴィル家のトップが頭に小鳥を乗せて婚約者を膝枕した状態でうたた寝しているとは夢にも思わない筈だよ」


にこにこと満面の笑みで嬉しそうに話すジャックを見てグレンは僅かに不機嫌になる。


「…それは私に対する侮辱か?」
「ええ?なんでそうなるかなぁ」
「そういう意味にしか聞こえない」
「違う違う。普段とは違う柔らかい表情だからいいな、と思っただけだよ」


ジャックは微笑み続けたまま、少しずれてしまったティナの体に掛かっていたブランケットを掛け直した。黙ってそれを見つめるグレン。


「グレン、君がその表情をしているのはティナの傍にいる時だけだと、気付いているかい?」
「……」
「君にそんな表情をさせるティナはやっぱり凄いなぁ」


ティナはグレンの婚約者である。それは勿論ジャックも知っている。だがその婚約が当人達にとっては形だけの婚約だということは当人達しか知らないことであり、これから先も誰にも言うことはないだろう。この事は二人だけの秘密。互いに心に思う人がいるが故の選択。
確かにグレンにとってティナは幼なじみであり、大切な人ではあるがそこまでなのだ。友人以上の気持ちは持ち合わせていない。ただ、ティナが自分にとって誰よりも気の許せる存在だということは理解している。しかしそれはティナにも言える事である。
暖かな風が木々を撫でる。ジャックの嬉しそうな微笑みがどこか悲しそうなものになった事に気付いたグレンはティナに視線を落とした。彼女の心にいるのは彼女がジャックと出会った日からずっと彼だけという事を彼は知らない。


「ジャック」


グレンの低い声がゆっくりとジャックの耳に届いた。


「代わってくれ」
「……は?」


突然のグレンの言葉にジャックは訳も分からず声を洩らす。


「この位置を代わってくれと言っているんだ。三月うさぎの影響で暫くティナは起きない。私はこれから用があるんだ」
「え、いや…は?」
「…早くしろ」


いつになく強引なグレンに戸惑うジャックの太股へ彼はゆっくりとティナを寝かせた。そんな彼の器用かつ迅速な行動にジャックはポカンとする。グレンは再びティナにブランケットを掛け直す。そしてスタスタと歩き去ろうとしているグレンに漸く我に返ったジャックが慌てて呼び止める。


「グレン!待っ…」


その声で立ち止まったグレンは薄く微笑んだ。



「…知っているか?ティナが一番綺麗に笑うのが…お前の隣にいる時なのだと」




さわりと木々が揺れた。







「…っ」


グレンが去ったその場所に残されたのは、顔を真っ赤に染めたジャックと幸せそうに微笑みながら眠るティナだけーー。




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