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そしてある人は、その手紙を日記と言った



拝啓。今この手紙を読んでいるあなたへ。



あなたがこれを読んでいるのが私がこれを書いた数日後、数年後、はたまた数百年後か。いつなのかは分かりませんが、私がその場にいないことだけは分かります。読んでくれているあなたに会えないのが本当に残念でたまりませんが、仕方ありませんね。これから記すのは私にとって長いようで短い、ある大切な二人と過ごした宝物のような日々のことですーーー…






「これは?」


手渡された古びた封筒に入っていた手紙の冒頭部分を読んだオズはそれを渡した目の前の人物、手紙を読むオズの様子を楽しそうに観察していたルーファス=バルマに尋ねた。


「汝はその手紙、なんだと思う?」
「質問に質問で返すのはどうかと思うんだけど」
「まあ、そう言うな。で?」


質問する姿勢を変えるつもりのないルーファスに苛立ちながらも諦めて改めて古びた手紙を眺めた。


「不特定多数に宛てた変わった手紙だけど、冒頭の後に続くのは内容通り至って平和な日々の事だし敢えて言うなら……日記みたいだと思った」
「……なるほど」


オズの回答にルーファスは含み笑いを零す。


「で、結局アンタがこれをオレに読ませた理由は?」


まだ笑い続けている男にオズは再び感じた苛立ちをなんとか抑える。この男に苛立ちのまま怒鳴った暁にはどうなるかなど、簡単に予想出来るからだ。


「これを書いたのは嘗てのバルマの人間だが、読んだ者によって意味合いが変わる不思議な手紙なのじゃ」
「は…?」


わけが分からないとオズは困惑する。手元にある手紙に視線を落とす。


「これの書き手は汝も名は知っておろう」


手紙の最後に書かれている名前を見てオズは目を見開く。そこにあった名前で思い出すのは銀髪の女性。オズに青色の薔薇を託して消えた懐かしい気配の人。


「その手紙が何の為に書かれたのかは今となっては誰にも分からぬ。故に我はそれを知りたいのじゃ。…それを日記だと言った汝は書き手の思いを汲み取れたのか…」


古びた手紙がオズの手中でかさりと鳴った。


「それも今となっては誰にも分からぬがな」









ある人はその手紙を遺書だと言い
ある人
は恋文だと言
また
ある人は謝罪文だと言った












「ティナ?一体何をしてるんだい?」
「あら、ジャック」


青色の薔薇が咲く中、ベンチに座って何かを書いているティナに向かって彼女の屋敷にやって来たジャックが尋ねた。


「手紙を書いているの」
「誰に、と聞いても?」


隣に座ったジャックにティナは書きかけの手紙を見せた。覗き込んだジャックはその手紙の冒頭部分を読んで首を傾げる。


「『今この手紙を読んでいるあなたへ』?。面白いね」
「でしょう?これは誰かに出す手紙として書いたのではないの」
「へえ」


ティナは手紙に手を当てた。


「私が私の思いを、軌跡を綴る為に書いたもの。私以外に読む人はいないけれど、私がいなくなった時、残ったこの手紙を誰かが読むかもしれないでしょう?」
「燃やしてしまえばいいんじゃないかな?」
「ダメよ。せっかく残すために書いたのに。それにこれは読まれてもいいものだから。その為に宛てた名よ」
「なるほど」


ジャックはティナを見つめた。


「…いつかその手紙を読ませてくれないか?」


ティナは手紙からジャックに視線を移した。


「いいけれど…私がいなくなってからにして頂戴ね」
「では、私がそれを読めるのは当分先になりそうだ」
「ふふ…そうね、少なくとも私よりも長生きしなくちゃね」
「ああ、頑張るよ」


楽しそうな笑い声と共に、真新しい封筒と便箋がティナの手中でかさりと鳴った。


ーー長くなったけれどここまで読んでくれてありがとうございます。少しでも彼等のことを私がいかに大切にしているということを分かって貰えたら嬉しいのですが。最後にこの手紙を読んでくれたあなたに青い薔薇の花言葉『奇跡』を贈ります。もしもあなたの未来に苦しい事があった時、あなたのもとに奇跡が舞い降りますように。



敬具。ティナ=バルマ







あきゅろす。
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