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小説 3
星の中で歌わせて・5
「オレはお前の歌、好きだよ」
 気負いなく、ハッキリと事実を告げる。
「お前の声も好きだし、歌い方も好きだ。歌い初めにちょっと低く掠れる感じの、コケティッシュなとこも好きだ。オレのスイングに、気持ちよさそうに乗ってくれるとこも好きだ。お前と一緒なら、オレはスゲー自由になれるし、どこだって行けそうな気になる。最高の相棒だと思ってる」
 最高の相棒。ユニットを組んで数ヶ月、何度も繰り返し告げて来た言葉だ。
 REN以外のヴォーカルなんて、今のオレには考えらんねぇ。うまくやっていけそうな気がしねぇ。
「音楽ってさ、どうしても相性あるじゃん? オレだって、誰とでも合わせられる訳じゃねぇ。どうにも合わなくて、やってらんなくなって、ビッグバンド抜けたこともある。だからお前にだって、合う合わねぇがあっていいんだよ」
 RENは黙ってオレの話を聞いてたけど、やがてぽつりと「相性……うん」つってうなずいた。

「お前がヘタクソなんじゃねぇ。たまたま、そいつとは合わなかっただけなんだ。それは不幸だったかも知んねーけど、オレにとっては何よりの幸運だ。だって、それがあってこそ、今のお前があるんだろ?」
「そう……だけど」
「だけどじゃねーよ、自信持て」
 こつんと額を叩いてやると、そこをさすりながらRENがちらっと笑った。
「お前は、オレの1番の相棒だ」
「ん……」
 曖昧なうなずき。自信持たせねぇのにもどかしさが募るけど、ようやく浮かんだ笑みに、ちょっとだけホッとする。
 やっぱRENは、泣いてるより笑ってる方がいい。
 はにかむように笑って、いつまでもオレの横で歌ってて欲しい。

「……好きだ」
 思わず口に出すと、RENは聞いてなかったみてーで、「ふえ?」と無防備に顔を上げ、デカい目にオレを映した。
 さすがに真っ昼間のレストランの中で、繰り返し告白する勇気はねぇ。
「いや……ケーキ、食えよ」
 照れ隠しに勧めながら、思い出したようにコーヒーを飲む。とうにぬるくなってたコーヒーはお世辞にも美味いとは言えなかったけど、喉の渇きはマシになった。

 RENの方は、まだケーキを味わうような気分じゃねーらしい。
 フォークを弄びながら何を考えてんのかと思ったら、RENがちらりとオレを見た。
「TAKAにも……合わない人、いた、のか」
「ああ……その話?」
 伺うような問いにドキッとしたけど、何とか平静を装った。
 ホントは思い出したくねーし、話したくねぇ。けど、RENにだけ辛いこと打ち明けさせんのはフェアじゃねーような気がした。
「大学ん時の先輩でさ、ずっとユニット組んでた人いたんだ。結構強気なアレンジする人で、周りをぐいぐい引っ張ってく感じの。それに乗っかってりゃ、そこそこ気持ちイイ演奏できんだけどさ、反面、あんま自由がなくて……」
 喋りながら当時のことを思い出し、胸がちくっと痛くなる。RENを想う痛みとは違う、どうにも癒せねぇ古傷の痛みだ。
 恋情じゃなくて憧れとか尊敬とかの類だったけど、オレの音楽を認めて貰えなかったって思いは、ある意味片思いに似てたかも知んなかった。

「すげー才能ある人だし、他のメンバーだっていいヤツばっかだったけどさ。音楽性の違いっつーか……とにかく、オレの思うようにはやれなくて。息が詰まって、耐えらんなくなっちまった」
 ふふ、と笑いながら、古傷の痛みを思い出す。
「その人に、オレの音楽は必要なかったらしい」
 自嘲と共にそう言うと、いきなりRENが立ち上がった。
「おっ、オレはTAKAの音、好き、だよっ」
 突然の勢いに面食らいながら、「座れ」って苦笑する。慰めでもお世辞でも、認められると悪い気はしねぇ。
 じわっと赤面しながら、もじもじ座りなおすRENが愛おしい。
 ああ、やっぱどうにも好きだ。
 溢れる思いに浸りながら「あんがとな」って礼を言うと、照れ臭そうに笑われた。

「お、オレも、TAKAと組めてよかった。TAKAのピアノ、には、星が見える。星の中で、歌ってる気分になるんだ、よ」

  Fly me to the moon
  Let me play among the stars

 RENの言葉に、ドキッとした。
 星が見える、って。誉め過ぎだろうと思ったけど、そんな器用なお世辞言えるようなヤツじゃねぇ。キラキラした目で笑われて、じわっと胸が熱くなる。
 星の中で歌う。まんま「Fly Me To The Moon」の歌詞で、オレの方こそ月まで舞い上がりそうだ。
「……そうか」
 そんだけ言うのが精一杯で、照れ隠しに冷めたコーヒーをぐびっと飲む。苦いだけのコーヒーのハズが妙に美味く感じられて、我ながらゲンキンだなと思った。
「うん!」
 RENもいつもの調子でうなずいて、ようやくケーキを食い始めた。
 オレが勝手に選んだティラミスは、十分美味かったらしい。フォークを口に入れた途端、RENの口元が笑みに緩む。
 やっぱRENは、笑ってる方がいい。

  Let me see what spring is like
  On a-Jupiter and Mars

 RENと一緒にやれるなら、木星だろうと火星だろうと未来だろうと、どこにでも行ける。
 誰も知らねぇ景色を、一緒に見れる気がした。
「……好きだ」
 立ち上がり、頭を抱き寄せて耳元でハッキリと告げる。
「ユニットとしても、そうでなくても。ずっとお前と一緒にいてぇ」

  In other words, I love you

 オレの告白に、RENは今度こそ気付いたらしい。みるみるうちに真っ赤になって、いきなりあちこちに視線をキョドキョド飛ばし始めた。
 そんな様子も可愛くて、ふふっと笑える。
 返事は貰えなかったけど、手を繋いでも振り払われたりしなかったから、今日の所はそれでいいやと思った。

(続く)

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