小説 3
夜に棲む人・2
料理を食べながら、色んなことを話した。
主に、思い出話だった。
初めて会った、グラウンドでの事。群馬での合宿の事。三星との事。夏大、ケガ、そして2人で交わした約束の事。
秋大、春大。そして2年目、3年目の夏の事……。
2人きりで、こんなにたくさん話したことなんて、初めてだった。
最初に感じた違和感や緊張なんて、いつの間にか吹き飛んで、オレは話に夢中だった。
嬉しかった。
阿部君が、オレの話を聞いてくれる。笑ってくれる。「そうだな」って、相槌を打ってくれる。
オレの真横で。
オレの顔をじっと見て。何だかそれだけで、ふわふわといい気持ちになった。
風呂の後でケーキ食おう、と言われて、お風呂を借りた。
「浴室を暖めといてやるよ」
そう言って阿部君が先に入った。
阿部君と入れ替わりに入ったお風呂は、白い入浴剤が入ってて、いい匂いがした。花の匂いには詳しくないけど、何かこれは、バラだって分かった。
2階に戻ると、部屋の中は真っ暗だった。
廊下からの明かりで、阿部君の影がシルエットになってぼんやりと分かった。
え、何で暗いのかな? 立ったままでキョドってると、カチッと音がして、小さなオレンジ色の光が現れた。
ライターの火だ。
「戸、閉めろよ」
ライターをケーキのロウソクに近付けながら、阿部君が言った。
「う、うん」
オレはゆっくりと戸を閉め、阿部君の横にぺたんと座った。
ロウソクの明かりが、ゆっくりと増えていく。
オレンジの光と闇の中で、阿部君がふふっと笑った。
「お、……」
おめでとう、と言い終わらない内に、阿部君がふっとロウソクを吹き消した。
闇。
闇の中で、何かが動いた。
そう思って……目を凝らす。何かって何だ、ここにいるのは阿部君だ。けど。
「阿部君……?」
返事はない。
ただ、ぐいっと肩を抱かれた。
『18で吸血鬼になっちまうから』
以前聞いたセリフが、突然頭によみがえる。
『信じるか?』
阿部君が、オレの耳元で囁くように言った。
「もうすぐ18だぜ」
ぬるい息が首筋にかかる。
「ひっ」
オレは小さく息を詰めた。
――噛まれる!?
恐怖に心臓がギュッと縮む。
だけど。
裸の首筋に当てられたのは、牙でも犬歯でもなくて、柔らかな唇だった。
ほっとして……でも。次の瞬間、べろりとそこを舐められて、ギョッとする。
「や、な、あっ……」
抗議しながら突き飛ばそうとしたら、反対にぎゅっと抱きしめられた。
「好きだ」
阿部君が言った。
意味が分からなかった。
好きの意味も。シャツの中に差し込まれた冷たい手で、ゆっくり背中を撫でられる意味も。
「三橋……ずっと好きだった」
阿部君は熱のこもったような声で、そう言ってオレを押し倒した。
闇に慣れ始めた目に、覆いかぶさって来る彼の輪郭が映った。
(続く)
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