小説 3 オレが二人をバカップルと呼ぶ訳 (大学生・水谷視点) 「明日、お店に買い物行く、よー」 と三橋に言われてから、まあ多分、一人で来るんじゃないんだろうなってのは、予想がついてたよ。 ついでに言うと、誰が一緒かっていうのも、予想がついてま・し・た! 「よー。来てやったぞ、クソレ」 オレのバイト先へと、三橋に付き添ってやって来たのは……何年も前のことを、いまだに話題にする男、阿部隆也。 普通のシャツにジーンズ着てるかと思うと、意外にストーンアイランドとかだったりする、嫌味なヤツだ。 今日着てるTシャツも、さりげにブラックトップモーターサイクルだしね。 そのシャツ、幾らか分かって着てんのー? って何度か訊こうと思ってたけど、「当たり前だろ」とか鼻で笑われそうで、想像するとムカつくから、ずっと訊けなかったんだよねー。 「水谷君、いいお店だ、ね」 こうやって素直に褒めてくれるとこ、ホントに三橋はイイコだねー。 こんなイイコが、あんな黒い阿部と恋人同士なんて。しかも、同棲してるなんて。まったく世の中、不思議だよね。 そういう三橋の服装はと言うと、淡い色のトップスが多い感じ? まあね、色白いし、ベージュでも水色でも何でも似合うよね。 人前だからかな、阿部も三橋もべったりじゃなくて、意外にも別行動で服を探してる。好みが違うのかな? やっぱ、側に行くなら三橋の方だよね。 お、今日はコットンシャツをお探しですか? 三橋は同じデザインで、オレンジのと黄緑色のとを両手に持って、見比べてる。 「たまには、こういう深い色もどう?」 深緑色のタータンチェックのシャツを見せると、三橋は「うお」と言った。 「に、似合うか、な?」 「ちょっと羽織ってみたらー?」 オレ達が、そんな和やかな会話をしていると、向こうの方から阿部が大声で三橋を呼んだ。 「三橋ぃ! ちょっと」 「う、は、はい」 三橋はちょっと慌てたように、手に持ってたシャツを全部オレに渡した。 呼ばれてすぐ行かなきゃ、あいつ怒るの? 亭主関白だなぁ。 健気な三橋を思って、ちょっとムッとしちゃったけど、うん、あの、どうも違うね。 飛んでった三橋を前に、阿部が真面目な顔で訊いている。 「こっちとこっちなら、どっち?」 「どっちもダメ、です」 うわー、三橋がはっきり首振った。 まあ、気持ちも分かるけど。だって、阿部が持ってるのは、レインボーストライプのジャケットと、白で縁取りされた真っ赤なジャケット。 どこのお笑いタレントかな。っていうか、よく見付けて来たね、そんな服。バイトのオレでも初めて見たよ。 「じゃあ、これとかは?」 阿部が次に三橋に見せたのは、紺のジャケット。でも襟と袖口がトロピカルフルーツ! ついでに裏地もトロピカルフルーツ! 「これリバーシブルじゃん、良くね?」 いやいや、リバーシブルだけどね、トロピカルフルーツ柄のジャケット、一体どこに着て行くの? と、これにも三橋が、はっきり言った! 「良くない、よっ!」 阿部がニヤッとして、何か言おうとしてたけど、三橋はもうまるで無視して、阿部の背中をぐいぐい押した。 「今日、はオレの服、買いに来たんだ、から、阿部君は、大人しく、靴下でも選んで、て」 そうして阿部を、下着コーナーに押し込め、三橋が言った。 「阿部君、は、オレが選んだ服、黙って着てればいーんだ、よっ!」 オレ、一瞬、耳を疑った! だって、三橋だよ? いつも阿部のいうこと、にこにこ笑って聞いてそうな三橋が、そんな強気な発言するなんてっ。 しかも阿部が! オレのこと「クソレ」呼ばわりして、偉そうで、お前絶対Sだろって感じの、あの阿部が! 「……ったよ」 って、ちょっと照れたように横向いたんだ! 亭主関白!? 三橋が、亭主関白なのっ!? けど――その後も阿部は、チャルメラ柄のトランクスとか、富士山柄の「日本一」トランクスとか、三橋に見せては、怒られてた。 あー。 横で見ててさー、よーく分かったよ。 阿部はさー、つまり、シュミなんだね。 変な柄の服を見付けるのが、じゃなくて……それで三橋を怒らせるのが、シュミなんだ。 うん、バカだね。 バカップル! 花井がさー、この二人のこと、いつもそう呼ぶんだけど。オレもその気持ちがよーく分かったよ。 オレ、もうそろそろ休憩時間なんだけど。何も言わずに消えちゃっていいかなー? あ、他のお客様がレジに並んでる。 「いらっしゃいませー」 オレはにこやかに笑いながら、二人を放置してレジに向かった。 (終) ※南瓜ままん様:フリリクへのご参加ありがとうございました。「服選びデート、微妙に趣味の悪い阿部と突っ込み役バイトらーぜ」ですが、全然面白くない話になってしまって申し訳ありません。笑える服ってどんな服!? 考えれば考える程、分からなくなりました……。 [*前へ][次へ#] [戻る] |