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小説 3
ルーキーズフレア・7 (終)
 ホテルで予約した部屋に入り、ダブルベッドを見た瞬間、三橋がぼんっと真っ赤になった。
 コートを脱いでクローゼットに掛け、ベッドに座って三橋を手招く。
「来いよ」
「うえっ」
 肩をびくっと跳ねさせて、真っ赤な顔でキョドる三橋。
 付き合い始めてから、週末はほとんど三橋の部屋に入り浸り、それなりのことをしてきたっつーのに。今更恥ずかしがってんのが、ちょっとおかしい。
 やっぱ、いつもとは場所が違うからか?
「来い、って」
 強引に手を引っ張り、ダブルベッドに座らせる。勢い余ってこてんと寝転がった三橋に覆い被さり、キスをすると、小さく「んっ」とうめくのが聞こえた。

「ふあ、阿部君っ」
 服越しに体をまさぐると、上ずった声で名前を呼ばれる。
「よ、酔ってる、でしょっ」
「酔ってねーよ」
 すかさず言い返しつつ、確かにちょっと酔いが回って来てる自覚はあった。店を出た直後はちょっと飲み足りねぇくらいだったけど、今はもう十分になってる。
「『爽春』とワインと、4杯しか飲んでねぇ」
 正直に答えつつ、細い体を服の上から撫で回す。
 胸を撫で、背中を撫で、細い腰から尻へと撫でると、「も、もうっ」って身をよじられた。
「そ、『爽春』は度数、高め、だよっ」
「あー」

 適当に返事をしつつ、三橋の首元に顔を埋める。
 ほんのり甘い、三橋のニオイだ。
 肌も甘いけど、唾液も甘い。キスの後味もほんのり甘い。唇を重ね、舌を差し入れて口中を味わい、気持ちよさに頬を緩める。
「『爽春』の後味も甘かったな」
 ぼそっと呟くと、三橋はとろんと目を潤ませて、オレの間近でふひっと笑った。
「あ、あれ、阿部君のイメージなん、だ」
 って。
「ちょっと辛口で、は、激しくて、でもキスはほんのり甘く、て……」

 ベッドに押し倒され、体を撫で回された状態で、とつとつと語って微笑む三橋。
 酔いのせいか、腹の奥がぐわっと熱くなり、たまんなくなって生意気な唇を封じる。
 激しい、って。どういう意味の激しさだっつの。
「阿部君、顔、赤……」
「お前のせーだろ」
 すかさず言い返し、服の裾から手のひらを差し入れると、組み敷いた体がびくんと跳ねた。
「ちょっ」
 オレの本気を感じ取ったのか、三橋の声が少々焦る。
「何?」
「ま、まだ昼、間……っ」
 そんなことを言いつつ、抵抗する様子がねぇのが可愛い。

 お仕置きを兼ねてんだから、拒否権なんかねぇに決まってる。
 昼間がどうとかなんて、今更だ。そもそも水商売で昼夜逆転の生活をしてるくせに。昼に寝ることも、セックスすることも普通にあるだろっつの。
 つーか、ここんとこのすれ違いは完全にそのせいだ。
 生活リズムが違うと、活動時間も違う。寝てるかなって気にして電話だって控えがちだし、メールの返事もタイミングがズレがちだった。
 それでも別に、いいと思ってたけど――。
「なあ、一緒に住もうぜ」
 組み敷いたまま、潤んだ目を見下ろしながら告げると、三橋はきょとんとまばたきして、それから「う、え」と目を泳がせた。
「あ、阿部君、酔って、る?」
「酔ってねーって」
 いや、酔ってるかも知んねーけど、酔ってるから言い出した訳じゃねぇ。
 一番の目的は、すれ違いの解消だ。

「お前の店から、徒歩圏内ならいーんだろ?」
 オフィス街にも近ぇから家賃はそこそこするだろうけど、2人なら払えねーこともねーだろうし、光熱費その他も安くなる。
「で、でも、オレ、帰り遅い、し」
「あー、まあ、寝室は別にした方がいーかも知んねーけど。すれ違いよりいいって」
 ふっと笑って言い放ち、組み敷いたままの三橋にちゅっとキスを贈る。
 きょときょとと視線を左右に揺らし、はくはくと薄い唇を開け閉めして。思いっ切り戸惑ってるみてーだけど、三橋にとってデメリットはねーだろう。
 オレだって、会社が近くなる分ちょっとは通勤が楽になる。
 何より、恋人と一緒に住むって、それ自体がすげー贅沢に思えた。

「春だし、いーだろ」
 もっかいキスして抱き起すと、三橋は顔を真っ赤にしながら、乱れた服をいそいそ直した。
 人知れず満開に咲く、オレだけの桜。
 春は暖かいだけでも甘いだけでもねーし。現実は見た目より辛口かも知んねーけど、きっと2人なら乗り越えられる。
 すれ違いまくりの平日だって、寝顔見るだけで癒されるだろうし、ちょっとは話くらいできるだろう。
 今電話できるか、忙しいか、推測し合って連絡がおろそかになる心配もねぇ。
 フレアの練習も見れるし……隠し事も、不可能だ。
 まあ、グラス類をパリンパリン割られたらさすがに怒るかも知んねーけど、練習に使うのはプラボトルとかだし。専用のゴムマットだって、通販で売ってるくらいだから大丈夫だろう。

「天井の高い部屋、探してやるから」
 ニヤッと笑って頭を撫で、座った状態で抱き寄せると、三橋はしばらく黙った後、こくりと小さくうなずいた。
「ゆ、床は、マット敷いてくれなきゃダメ、だよっ」
 って。フレアの練習する気満々な言葉に、「分かってるよ」と破顔する。
「そ、それに、冷蔵庫、お酒だらけにする、かも」
「分かってるって」
 確かに三橋んちの冷蔵庫は、リキュールと炭酸とカクテルに使うジュース類ばっかであふれてるけど、そんなのは今更だし。何なら冷蔵庫くらい、キッチンに2つ置いたっていい。
「き、金曜は、お店にも、来てくだ、さい」
 じわっと赤面しながら告げられた要望に、ぶはっと笑えた。

 それは、店の売り上げの為か。それともオレにショーを見せたいからか。よく分かんねーけど、店の雰囲気自体オレは好きだし。
 何より「オレのだ」って主張するためにも、あの常連席を手放すつもりはなかった。

   (終)
※「お祝いカクテル」に続く。

※しろた様:「フレアバーテンダーの続編、ケンカする2人など」でしたが、すれ違いしつつもケンカにはなりませんでした。糖度を少し足してみましたが、いかがだったでしょうか? また「ここはこんな感じで」などご要望がありましたら、お知らせいただければ修正します。この度はキリ番Get、おめでとうございました。ご本人様に限り、お持ち帰りOKです。

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あきゅろす。
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