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小説 3
この沼に底はない・前編 (150万打キリリク・自覚阿部×腐男子三橋)
 三橋に告白しようと思ったのは、3年目の夏の終わりだった。
 最後の夏を精一杯戦い、やりとげた満足感の中で迎えた、高3の夏休み。部活の引き継ぎも、引退式も終わって、ようやく野球漬けの毎日も終わりだ。
 これからは受験を1番に据えて、春まで戦うことになる。
 その前に――1度自分の気持ちを、ハッキリと位置付けておこうと思った。
 「好きだ」って言いたい。受け入れて欲しい。けど同時に拒絶されんのが怖くもあって、ちょっと迷う。
 それでも言おうって踏ん切りがついたのは、推薦入試の申し込み期限が迫って来たからだ。このまま離れ離れになりたくねぇ。そう思うと、黙ってはいられなかった。
 「話がある」つって学校帰りに三橋の家に押しかけて、2人きりになり、口を開く。

「お前さ、男同士の恋愛って、どう思う?」

 告白の前フリとしての質問に、三橋はにへっと頬を緩めながら、「いいと思う、よっ」って答えた。
 それ聞いた瞬間、「よっしゃー!」って心の中でコブシを振り上げちまったのは、仕方のねぇことだろう。
 だって、常識で考えて、「有り得、ない」とか「キモイ」とか、飾らねぇ言葉でバッサリ斬られる可能性の方が、どう考えてもデカいしな。
「だよな、悪くねーよな」
 ホッとしながら同意を促し、目の前の三橋を見つめる。
 ほんのり頬を赤く染めた、色白の顔も。緩んだ口元も。キラキラしてるデカい目も。好きだなぁ、としみじみ思う。
「オレ、好きなんだ」
 そんな言葉が、素直に出た。

「オレ、もっ!」
 直後、即答で返事をよこされて、テンションがぐわーっと上がる。
「マジ!?」
「うん、オレ、ウソ言わない、よっ」
 興奮にますます顔を赤くして、こくこく何度もうなずく三橋。
「あ、阿部君、こそ。そ、そんな素振り、今までなかった、だろ?」
 って。上目遣いで見つめてくんのが、すげー可愛い。
「当たり前じゃん。あんま大っぴらにできねーだろ?」
「そ、そう、だね」
 オレの言葉に、再びこくこくうなずいて、三橋が長いまつ毛を伏せる。
「あ、あんまこういう、の、理解されない、し。バレるの、怖い、よね」
 理解されねぇ、とか、バレが怖ぇ、とか、その気持ちにはオレもすげー心当たりがあって、「だよな」って深くうなずいた。

「分かる」
「わっ、あっ、阿部君も、分かる!?」
「分かるよ」
 キッパリ同意すると、「ふああっ」って弾んだ声を上げて、三橋がオレの手を握った。
 ぎゅうっと両手で力を込めて握られて、結構痛い。けど、そんな痛みも、三橋の感動の表れだと思うと愛おしい。
「だからさ、付き合ってくれねぇ?」
 高まる思いのまま希望を告げると、「うんっ」って強くうなずかれた。
 よっしゃあ、と心の中で万歳三唱しようとした時――。
「オレも、行き、たいっ!」
 そんなことを興奮したように言われて、あれ? ってなった。
 ――オレも?

「行きてぇって、どこへ?」
 内心、首をかしげつつ訊くと、「どこでも」って。
 これは……デートの誘い、か?
 さっき、あんま大っぴらにできねぇっつってたのに、大胆だな。いや、けど、普通にしてりゃ男2人で歩いてたって友達同士にしか見えねーし、気にする方がおかしーのか。
「お、お、オレ、ずっと憧れてたん、だ。でも、勇気がなく、て」
 恥ずかしそうに、ぼそぼそと告げて来る三橋は、やっぱ可愛い。憧れてたって、そんなこと言われりゃこっちも口元が緩んでくるし、テンションも上がる。
「勇気がいるっつーのは分かるよ。オレだって、お前に打ち明けるの、すげー迷ったし」
「ほ、ほ、ホント? 阿部君、分かる?」
「分かるよ」
 さっきと似たような会話を繰り返し、デカい目を覗き込んでしっかりうなずく。

 ふおおお、と盛り上がってる三橋が可愛い。
「で、どこ行く?」
 尋ねながら、目の前のふわふわ頭をポンと撫でる。
「ら、来週日曜の、戸袋! そ、それか、再来週、トレードセンター!」
「トレード……?」
 戸袋はともかく、トレードセンターって。んなとこ行ってどうすんだ?
 首をかしげながら「いーけど」って告げると、バッと首元に抱きつかれた。
「阿部君、大好き!」
 耳元で叫ばれて、鼓膜がキィンとなったけど、そんだけ喜んで貰えりゃ、オレの方も嬉しい。
 興奮しまくってる、熱く細い、引き締まった体にオレの方からも手を伸ばし、ぎゅっと抱き締める。

 可愛いな、キスしてーな。そう思いながら三橋の顔を覗き込み、ニヤッと笑って顔を寄せると、「ふおおおっ!」って奇声を上げられた。
「阿部君っ、のっ、ノリノリ過ぎる、よっ!」
 カーッと顔を赤くしながら、オレに文句を言う三橋。
「おおお、オレ、経験値、低いんだ、からっ」
 って。そんな自己申告も、誘ってるとしか思えなくて、ニヤニヤ笑いが加速する。
 たらーっと三橋が鼻血を出して、ロマンチックな雰囲気は一瞬で吹き飛んじまったけど、好感触だし、デートもさっそく決まったし、まあいいやと思った。

「い、いっぱい買おう、ねっ」
 鼻にティッシュ詰めて、にへっと笑われて、首をかしげる。
「買う……?」
 買い物デートってことか? 相変わらず三橋の言うことは、イマイチ説明が足んなくて、意味不明でよく分かんねぇ。
 けど、そういうとこも含めて好きだと思うんだから、仕方ねぇ。
 来週のデートが、楽しみだった。

(続く)

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