小説 3 見られて困るモノ (Side M) 「レーン、起きなさいよ」 ある日曜日の朝。目覚まし鳴ってるのに起きれないでいたら、お母さんに布団を引き剥がされた。 「いい天気ねぇ」 お母さんはそのまま、シャッとカーテンを開け、ガコンと窓も開けている。 うちの親は、こうして気軽にオレの部屋に入って来る。中学では一緒に住んでなかったから、かな? 小学生のときは、別に気にしなかったけど、最近は、ちょっと困る。 田島君から借りた本とか、見られたら困るし。他にも……恋人の阿部君と、えっちする時に使うローションとか、隠してあるんだ。 オレは片付けるの得意じゃないから、部屋は基本散らかってるけど、でも、だからこそ、どこに何を置いたかは、自分でちゃんと把握してる。 ただ、自分が置いたんじゃないものは、よく分かってない。 この間も、阿部君のシャーペンがどこかに転がっちゃって、探すの大変だった。 ベッドの側に積んである、野球雑誌の側とかにあったけど。 部屋がごちゃごちゃだから探せないんだ、って言って、阿部君にウメボシされた。それでその後、え、えっちの時、お仕置きだって言って……恥ずかしい格好、いっぱいさせられた。 両ヒザを自分で抱えて、広げさせられたり、とか。 あううー。 もう、阿部君は、普段クールなくせに、えっちの時はまるで別人なんだ。 この間も、いっぺんしまったゴムをわざわざ出してきて、「残りこれだけだぞー」とか見せびらかして。 「オレ達、使い過ぎ?」 って。 「阿部君のせい、でしょー」 って言ったら、「生意気だ」って転がされて、アレコレされて、そんでそのままもう一回、になっちゃった。 えっちな阿部君は、ホント困る。 困るけど……好きなんだ、なぁ。 でも今日の阿部君は、ちょっと様子が変だった。 練習に集中できてないって言うか、ずっと上の空で。心配事でもあるのか、時々身もだえしたり、頭をかきむしったり、叫びながら走り回ったり。 「どうしたの?」 心配になって、一応訊いたんだけど……「何でもねーよ」って。 何でもない、って感じじゃないから訊いてるのに。オレって、そんな頼りないかな? オレだって、好きな人の力になってあげたい、です、よー。 練習から帰って「ただいま」を言ったら、お母さんが台所から顔を出して言った。 「おかえりー。お布団干しといたわよー」 「うお、ありがとう」 洗濯機に汚れた練習着を放り込んでから、着替えを取りに二階に上がる。 はあ、さっさとお風呂に入りたい。 今日は天気よかったし、布団干してくれたなら、ふかふかだろうな。気持ちイイだろうな。 そう思って、ふと机の上に目をやって……。 「うえっ!?」 思わず叫んじゃった。 勉強机の上に、ゴムが! 3連つなぎのゴムのアルミパックが、何でか広げて置いてある! 何で!? こういうの、持って来て持って帰るの、阿部君の役目のハズだ。何でここにあるの? 忘れ物? っていうか、何で、わざわざ広げて置いてあるの? 「うわあっ!」 オレはゴムを素早く掴み、机の引き出しの一番下の段に入れた。 それから、必死に思い出す。 ええと、ええと、最後にこの机で勉強したのって、いつだっけ? あう、思い出せないくらい前だ。 で、でも、これをここに置いたのがオレじゃないってことは、確かだ。 オレは片付けるの苦手だけど、だからその分、自分がどこに何を置いたかは、大体ちゃんと覚えてる。 問題は……これをここに置いたのが、阿部君なのかどうなのか、って事だ。 阿部君ならいいけど。 いや、よくない? だってそしたら、あの日からずっとここに、こうして広げてあったって事だもん、ね? そしたら、もう何度もオレの部屋に入ってるお母さんとかに、見られててもおかしくない、よね? 今のところ、別に何も言われてないから……気付かれてないって可能性もある、けど。 うおお。 それとも。それともそれとも。 ここにゴム置いたの、阿部君じゃなかったらどうしよう? オレじゃなくて、阿部君でもなかったら、一体誰っ? お母さん……布団干したって、言ってたよね。 そしたら、シーツの下とかに紛れてたモノとか、見つけて置いといてくれたり、するかも、だよ、ね? うわー、気になるな。どっちかな。 いっそ、阿部君に電話して訊いちゃった方が早い、かな? ゴムの残り、オレの机の上に広げたままにした? って。 でも、それでもし「知らねーぞ」とか言われたら、ダメージ大きいんだけど。 うおー。 ダメだ、どうしよう。 どんな顔して、降りて行ったらいい? これから一緒にご飯食べるのに! それに。それにそれに、相手は誰とか訊かれたら、何て答えればいーですか? ねぇ。オレ、どうしたらいいの、阿部君!? (終) ※ゆゆ様:フリリクのご参加、ありがとうございました。阿部母と三橋母しか出てないのですが、どうでしょう? ご希望のような感じに仕上がっていればいいのですが。 [*前へ][次へ#] [戻る] |