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小説 3
ジムランナーV・4
 プールはいいけど、水着ってあったっけ? それに思い至ったのは、翌朝になってからだった。
 なにしろプール自体、学生ん時以来行ってねぇ。だから水着だって、当然学生時代から買ってなかった。
 捨てた覚えはねぇから、タンスのどっかにあるんだと思うけど、どこにあるか分かんねぇ。そもそも6、7年前の水着が、今着れるかどうかも分かんねぇ。
「水着、ねぇかも」
 朝メシ食いながらそう言うと、「貸そうか?」って言われた。
 一瞬マジかって思ったのは、水着の貸し借りなんて訊いたこともねぇからだ。
 けど、そういやもっとキワドイ接触してる訳だし。ナマで何度もケツ穴掘っといて、パンツや水着の貸し借りにためらうって、今更だ。
 それに、あんまためらったりすると、プール行きそのものがなくなるかも。
「じゃあ、やめる?」
 そんな風に冷やかに言われんのは十分有り得そうだった。

 メシの後、さっそく三橋がクローゼットから水着を数枚持って来た。
 ビキニタイプと、ひざ下までのタイプと、足首まであるタイプ。どれもぴっちりした競泳水着で、思わず「おいっ」とツッコミを入れた。
 ビキニ、って。誰が着るんだ!?
 けど、そのビキニからにゅっと出る三橋の白い太ももを思えば、なかなか眼福そうで悪くねぇ。
 競泳水着ばっかなのも、インストラクターって職業を考えると、当然のようにも思えた。
 けど、三橋が着るのとオレが着るのとじゃ、大違いだ。
「競泳用って、お前、股間気になんねーの?」
 ズバッと訊くと、「ならない、よっ」ってじろっと睨まれた。
「阿部君、は、ヘンタイ、だ」
 って。ツンと顔を背けられたら、謝るしかできねぇ。
 確かに自分がプールに行っても、周りのヤツらの股間なんか見ねーよな。

「ワリー、ワリー。取り敢えず試着するから、水着借りるな」
 謝りながら、3枚の競泳水着を見比べる。
 ビキニのは黄緑色の生地に、黒の模様が入ってて結構派手だ。
 ひざ上までのは、サイドに太めの白いラインが入った黒の水着。足首まであるウェットスーツみてーな水着は、サイドに白と紺のラインの入った紺色地のものだった。
 パッと見、サイドのラインの方に目が行くから、股間は逆に目立たなそうだ。
「今更だけど、サイズってどうだろう? 違わねぇ?」
 去年に比べりゃ大分締まったと思うけど、三橋はもっと細くてスリムだ。
「あ……」
 サイズのことに今気付いたらしい。三橋はぽかんと口をひし形にした後、「そう、か」と唸った。

「阿部君、だいぶ痩せた、けど、大きい、よね」
「お前が細ぇんだろ」
 とつとつと喋る三橋の目の前で、潔く服を脱ぎ捨てる。
 別に見せびらかしてぇ訳じゃねーけど、三橋が恥らう様子もなくて、色気がねぇなってちょっと思った。
 オレの裸見て真っ赤になってた、ウブな三橋はどこ行った?
 まあ、26、7にもなって、同性の裸に真っ赤になんのもどうかとは思うけど、ちょっとくらい恥らってくれてもバチは当たんねぇだろう。

 試着にまず選んだのは、無難なところでヒザ上のヤツだ。
 色も黒だし、ラインが派手だし、股間に目線が行きにくい。実際に触ってみると、伸縮性があって、多少キツくても大丈夫じゃねーかって感じだった。
 けど――。
「うわ、これ……」
 股間の強調ぶりが、予想を裏切りハンパなく酷くて、絶句するしかなかった。
 自分で自分の股間がじっくり見れねぇ。なんか……ヒデェ。
 確かに大きめだって自覚はあったけど、勃起もしてねーのに、なんでこんな!? アンダーサポーターはいてねーからか?
 三橋はっつーと、目も口もぽかんと開けてビビってる。いや、ドン引いてるっつった方が正しいんだろうか?
「オ、レは、これ……」
 呆然と呟いてる様子が、申し訳なくも可愛い。じわじわと赤面してってる様子も可愛い。むうっとなってく顔も可愛かった。
 三橋の様子に癒されて、くらったダメージが薄れてく。

「やっぱ、お前のじゃサイズが合わねーな」
 ビキニと足首までのと、2枚とも三橋に返しながらニヤッと笑うと、三橋がぶんぶんと首を振った。
「そ、れだけじゃない、でしょー」
 ぺしっと二の腕を叩かれて、地味に痛ぇ。
「じゃあ何?」
「知ら、ない。もうっ、早く脱い、で!」
 オレの意地悪な問いに、ツンと顔を向けてきぃっと喚く。真っ赤な顔でそんな命令されたって、可愛いだけだ。
 昔みてーにウブじゃなくても、何も変わってねーんだな。くくっと笑うと、じろっと睨まれた。

「やっぱ、新しく水着買うわ」
 機嫌よくそう言うと、三橋はしばらくツンとしたままだったけど、「そうして」ってうなずいた。
「競泳用、なら、社販で安く買える、けど」
 安く買える、って言葉に一瞬「おっ」と思ったけど、いやいや、サイズを変えたって、さすがに試す勇気がねぇ。
「競泳用は勘弁してくれよ、普通のがイイ」
 うんざりしたようにぼやくと、三橋がふひっと小さく笑った。

「じゃあ、夕方、一緒に買う?」
 三橋からの誘いに、素直にうなずく。
 三橋は今日、昼から夕方までスタジオレッスンの予定が入ってるらしい。その後一緒に買い物をって言われて、じわっと喜びが込み上げた。
 外で待ち合わせてもいいし、ジムでトレーニングしながら、三橋が上がんのを待っててもいい。
 客との恋愛は禁止だっつーけど、オレらは男同士だし、親友だって思われてるみてーで、誰にも咎めらんなくて便利だ。
「おー、そうだな。平日は買いに行けそうにねーし」
 オレの言葉に、三橋が「分かった」ってこくりとうなずく。
 相変わらずの残業残業な毎日だ。ジムに通うことはできても、ゆっくりスポーツショップを覗く暇がねぇ。
 けど、5年もこじらせた出不精のこと思うと、随分外に出てると思う。

「今日水着買って、今度プール? 休み取れんの?」
「休みじゃなきゃ、誘わない」
 相変わらずのツンとした言い方だけど、慣れればこれも可愛く見える。
「そりゃそうか」
 ふはっと笑いながら衝動のまま抱き寄せると、三橋がビックリしたように「うおっ」とうめいた。
 悲鳴に色気は欠けてるけど、目の前のうなじは真っ白で色っぽい。
 久々の水着、久々のプールが懐かしくも嬉しい。

「お前のビキニ姿、見てぇな」
 こそりとねだると、「うえっ」って顔をしかめられたけど、赤面しながらじろっと睨まれたって、迫力に欠ける。
「オレだけに見せて、他のヤツらには見せんなよ」
 半ば本気でそう言うと、「なに言ってる、の」ってぺしっと背中を叩かれた。

(続く)

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