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小説 3
信号は青だった・1 (1111111Hitキリリク・大学生・同居・切なめ?)
「三橋と田島のドラフト指名を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
 花井君の音頭に合わせ、みんなが声を上げてジョッキを掲げた。
 8畳くらいの居酒屋の個室、ジョッキを打ち合わせる音がゴツゴツと響く。集まったみんなの笑顔を見ながら、オレもぐーっとビールをあおった。
 一緒にテーブルを囲むのは、西浦高校初代野球部のメンバーだ。
 一番祝って欲しい人の顔がないのは残念だけど、先約があるなら仕方ない。同棲してる恋人の阿部君には、ドラフト会議の夜、2人きりでちゃんと祝って貰ってた。
「あれ、阿部は?」
 誰かに訊かれて、「欠席だよ」って答える。
 オレと阿部君が男同士で同棲してるの、高校の仲間にはとっくに知られてることだった。

「阿部いないの、寂しいなー三橋?」
 そんな風にからかわれるのも、認められてる証拠みたいで嬉しい。
「あ、阿部君の大学、今日がドラフト指名の祝賀会、なんだ、って」
 唐揚げを頬張りながら教えると、誰かが「へぇー」って答えてた。
「うまくやってんのか?」
 泉君に訊かれて、「うん」とうなずく。
 大学も違うし、オレも最近忙しくて、ご飯も一緒に食べれてないけど、そう珍しいことじゃない。
 もうちょっとしたら野球部も引退だし、卒業に必要な単位はもう全部取っちゃったから、しばらくはゆっくり過ごせると思う。
 阿部君も忙しそうだったけど、就活もあるんだから、仕方ない。
 少なくとも、オレの方に不満はなかった。

「そ、そうだ、阿部君に写真、送、ろう」
 ふと思いついてケータイを取り出し、みんなの写真をメールで送る。
――みんな阿部君に会いたがってたよ――
 写真にそんな一文を添えると、横で見てた泉君が「オレは数えんなよ」ってくくっと笑った。
 泉君は阿部君と同じ大学だし、近所に住んでるから交流も深い。野球部には入ってないけど、阿部君とも、よくご飯に行ってるみたいだった。

「せ、先週、も、阿部君と一緒だった、でしょ?」
 仲がいいくせに、ってからかうつもりで、ふひっと笑う。
 先週っていうのは、ドラフト会議の当日だ。
 夕方から始まった会議に合わせ、オレは自分の大学で、野球部のみんなと会議の結果を見守ってた。
 その後は、記者会見とか大学との話し合いとか諸々があって、帰ったのが11時。
 阿部君の帰ったのはそのすぐ後で、「メシ食って来た」って言われたんだ。
「泉君、と?」
 そう訊いたら、阿部君は何て言ってたかな? とにかく否定はしなかったから、てっきりそうだと思ってた。
 それよりオレは、決まったばかりのドラフトのことでいっぱいで……阿部君にぎゅっと抱き締められ、「おめでとう」って言って貰えて、そんだけで十分満足だった。
 けど――。

「は? 誰が誰と一緒だったって?」

 泉君はイヤそうにそう言って、大きなパッチリした目でオレを睨んだ。
「阿部とは最近、会ってねーぞ」
 って。えっ、どういうことなの、かな?
 最近って、ここ1週間とか10日くらい? あれ、でも阿部君、しょっちゅう誰かとご飯、食べて来てるよね……?
「あ、のさ、阿部君と……」
 阿部君と、最後にご飯食べたの、いつ? そう訊こうとした時、水谷君に「三橋ぃ!」って呼ばれた。
「一緒に写真撮って〜」
 ケータイ片手に笑顔で言われ、「う、うん」とうなずいて立ち上がる。
 泉君はきょとんとしてたけど、特に急ぎの話題でもない、し。オレのカンチガイかも知れないから、もう気にしないことにした。

 あっという間に2時間が過ぎて、楽しかった飲み会もお開きになった。
 篠岡さんが帰るって言うので、それを送ってくって人もいて、一旦ここで解散だ。
「二次会どうする? カラオケでも行くか?」
 そう言われて、「うん……」と答えつつ、ケータイを見る。
 阿部君が合流できるなら二次会行きたいけど、さっきの写メにも返信はなくて、どうしようかな、と思った。
「歩きながら考えよーぜ」
 そう言ったのは、田島君だ。
「阿部か? 気になるなら、電話しろ」
 花井君に促され、阿部君のケータイに電話をかける。けど、数回のコール音の後、留守電に切り替わっちゃった。

「あの、二次会、カラオケだ、から。来れそうなら、連絡、して」
 メッセージを吹き込み、ケータイをポケットに入れる。
「こっちこっち、穴場のカラオケ屋があるんだぜ」
 田島君の案内で、みんなと一緒に歩き出す。

 田島君のおススメのカラオケ屋さんは、繁華街から少し離れたラブホテル街にあるらしい。
「そりゃ穴場だわ」
 とか。
「お前、よくこんなとこ知ってんな」
 とか。
「篠岡いなくてよかったぜ」
 とか。みんなでわいわい言いながら、派手なネオンの中、「カラオケ」っていう看板を目指して歩いた。
 阿部君と、こういうホテルに泊まったことはない。
 恥ずかしいけど、ちょっとだけ興味もあって、じわっと赤面しながらみんなに続く。

 『ご休憩5時間5千円』『宿泊1泊7千円』……。値段もホテルによってまちまちで、ネオンも看板も入り口も派手だ。
 わいわい言ってるのはオレたちだけじゃないみたいで、笑い声が聞こえる。人通りは多いけど、男女2人連れで歩いてる人は意外にいない。
 こんなんでお客さん、入ってるのかな?
 そう思って、ふと、すぐ横のホテルに目を向けると、入り口の自動ドアがガーッと開いて、中から人影が現れた。
 わっ、ととっさに目を背けて、「あれ?」って思って視線を戻す。

 2度見した先の自動ドアの前には、阿部君がいて――。
 すぐ後ろに立ってた女の子の顔には、見覚えがあって、ゾッとした。

(続く)

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