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小説 3
告白の後で・1 (原作沿い高1・両片思い)
 告白すんのはともかくとして、いちいちどっかに呼び出すのはホント勘弁して欲しい。
――昼休みに、体育館の裏で。
 手紙で指定されたとこにイヤイヤ行くと、知らねぇ女子が3人いた。
 2人がぐいぐいと1人の背を押し、「ほら、ほら」つってけしかけてる。
 けしかけられた方は真っ赤な顔して、「でも」とか「ええっ」つって迷ってる。
 迷うくらいなら呼び出すんじゃねーっつーの!
 真っ赤になってる様子も、うじうじしてる様子も、そんでその脇にいてけしかけてんのが2人だっつーことにも、誰かを思い出して余計ムカつく。

「用がねーなら、もう行くけど」
 低い声が出んのは仕方ねーだろう。だって、貴重な昼休みだし。どうせくだんねー用事に決まってるし。
 ホントはこういうの、メンドクセーし無視してたんだけど、野球部全体の印象が悪くなるとか花井や栄口に言われて、「丁重にお断り」ってのをするようになった。
 マジウゼェ。
 顔に見覚えがねぇって時点で、もうアウトだろって思う。
「あっ、待って!」
 ホントに1歩下がってやったら、女の一人が焦ったように声を上げた。
 ちっ、と舌打ちして、モジモジ女に向き直る。

 モジモジ女は真っ赤になって、視線をあっちこっちに泳がせた。
 それから言った。
「好きです付き合って下さい」
 勿論、即答した。
「ゴメン、今は野球第一だから」
 お決まりのセリフだ。前は「意味ワカンネー」とか「その前に、あんた誰?」とか言って泣かしたこともあったけど、それも花井らに注意された。
 教えて貰ったそのセリフのお蔭で、女の方もあっさり引いてくれるようになったけど――。

「じゃあ、野球の次でいいから。邪魔はしないから」
 モジモジ女は意外な積極性を見せて、そう食い下がって来た。
 メンドクセー。断ったんだから察しろっつの。脈があるんなら最初からそう言ってるって。
 はあー、とワザとらしいため息をつき、オレは「ワリーけど」ときっぱり言った。
「好きなヤツいるんだ」
 誰? とか訊かれたけど、答える義理はねーし。
「内緒な」
 そう言って、くるっと背中向けて大股で立ち去る。ウソは言ってねぇ。ただ、あんま堂々と「好きだ」なんて口にできるヤツじゃなかった。

 体育館の周りをぐるっと回ろうとして、オレはギョッと足を止めた。曲がったところに人がいて。
 それが誰か分かった瞬間、腹の底がスーッと冷えた。
 別に、告白を断ってる現場なんか、誰に見られてもどうでもいーけど……ただ、コイツにだけは見られたくなかった。
「あ、あの……」
 視線を左右に揺らしながら、おずおずとオレに声を掛けたのは、同じ野球部のメンバーで、オレとバッテリーを組んでる投手・三橋だ。
 さっきのモジモジ女と似たような素振りで、ちらっちらオレの顔を眺めてる。

「……何だよ?」
 問いかけながら、オレはさっさと歩きだした。
 ついて来ねーならそれでいいと思ってたし、どうせついて来るんだろうとも思ってた。
 そしたら三橋は案の定、盛大にキョドリながらもオレの後を追って来る。
 木立を抜け、校舎に囲まれた中庭を抜け、裏グラが視界の中に入って来た頃、斜め後ろから三橋が言った。
「あ、阿部君、さ、さっき、の……ホント?」
 ギクッとしながらも平静を装い、「さっきのって?」と訊き返す。
 見られただけじゃなくて、聞かれてもいたらしい。最悪だ。
「す、好きな人、いる、って……」

 三橋の声が、少しずつトーンダウンする。
 ちくっと胸が痛んだけど、そんなの顔に出す訳にいかねーし。「いる」って正直に言った方がいーのか、「ウソだよ」って安心させた方がいーのか、それももうよく分かんなかった。


 三橋に告白されたのは、もう随分前のコトだ。夏の終わり、関西への遠征が終わってすぐの頃。
 珍しく三橋からメール貰って、2人だけで会った。
 オレんちの近くの、ひと気のねぇ公園。セミの声の降る中、三橋がドモリもしねーで、キッパリと言った。
「オレ、阿部君のコトが好きだ」
 ドキッとした。
 じわっと体温が上がったのを覚えてる。
 だってオレも、もっと前から――三橋のコトが好きだった。けど。

「……んなことより、野球が先だろ」

 オレはそう言って、三橋の告白を断った。
 直前の関西遠征ん時に、他校の連中がそう言ってたのを聞いたせいだった。色恋は二の次だ、って。
 甲子園が先で、恋愛は禁止だって。
 だから、三橋への想いもオレなりに封じ込めようと決意した。その矢先の告白だったから、断んのも当然だろう。
 三橋はエースだ。
 チームの甲子園優勝には、絶対に必要な存在だ。
 このまま、恋なんか忘れて二の次にして、オレとの野球だけに専念して欲しかった。

 そして、甲子園優勝して引退した後、まだ好きだったらその後に――。
 三橋には言わなかったけど、オレは密かにそう思ってた。

(続く)

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