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小説 3
あるキャプテンの素晴らしいクジ運・4
「あーっ、花井ーィ!」
 横から水谷にひじ打ちされ、ハッと我に返る。

「なんだよー、まだ食ってねーじゃん。何、そのデカいの?」
 水谷の言葉に、近くにいた泉や西広も集まって来た。
 阿部と三橋が気になるが、口に出すのもどうかと思って、意識を自分の皿に戻す。
「ホントだ、デカいな。何だそれ?」
「バナナかなー?」
「あー、多分、阿部のバナナだな」
 オレはみんなに答えつつ、太くてデカいのを箸でつまんだ。チョコが固まりかけてんのか、ちょっと固ぇような気もする。

「チョコバナナなら当たりだろうに、『阿部の』ってつけちゃうとビミョーだね〜」
「バナナかと思ったら、実はズッキーニだったりしてな」
「ピクルス丸ごと1本とかな」
 みんなのからかいに、チョコピクルスを想像して顔がこわばる。酢のものは洋風も和風も全部苦手だ。
 思わずニオイを嗅いでみたけど、濃厚なチョコのニオイしかしねぇ。
「まさかぁ……」
 力なく言いつつ、オレはソレを口に入れ――1口分を噛み千切った。口の中で、パリッと軽い音がした。

 ……えっ、パリッ!?
 ギョッとすると同時に、とんでもなくイヤな食感がして、口元からピキピキと強張った。
 何だコレ!?
 バナナには有り得ねぇ音と共に、バナナには有り得ねぇ歯ごたえ、そして味が口の中に広がる。
 ピクルスじゃねぇ。ズッキーニじゃねーけど、有り得ねぇ。
 オレが闇チョコフォンデュで選んだのは、阿部のバナナじゃなくて――阿部のフランクフルト、だった。
 ムダにデカいのがムカついた。

「何だった?」
 と覗き込まれて、当然だけど爆笑される。
「スゲー!」
「フランクフルト、有り得ねぇ!」
 って。マジ有り得ねーよ。
「さっすが引きがいーな」
 とか、笑われてもホント言い返せねぇ。
 一気に食い終わりてーけど、ノドが呑み込むのを拒んでる。

 オレがこんな目に合ってるっつーのに、向こうから三橋の能天気な声がした。
「えっ、阿部君のバナナ、オレも食べ、たい」
 って。バナナじゃねーよ! しかも、
「んなモンいくらでも食べさせてやるよ、ほら……」
 とか不穏なこと言ってるヤツがいるんだけど!? 「ほら」って何だ? 誰か止めろ、あいつら。笑ってねーで引き離せ!

 喚きてーのに口ん中は妙なモンでいっぱいで、スゲーストレス。気になって食えねぇ。つーか、コレ、もう食いたくねーんだけど。

「さー、もうみんな楽しんだよな? そろそろ普通のフォンデュパーティにしよーぜー」
 そう言って田島がガラッと引き戸を開けても。パチッと照明が点けられても。ぞろぞろみんなが廊下の方へと出てっても、オレは食い終わる事が出来なかった。
 オレ自身もオレの胃も嫌がってたけど、それよりまず、ノドが嫌がった。
「花井、そっち選んでくれてありがとう」
 西広に爽やかに言われても、ちっとも嬉しくねぇ。
「花井、頑張れー」
「味わうな、一気に食え」
 無責任な応援を真横で聞かされて、イラッとする。それでも残したりはしたくなかったから、みんなと一緒に廊下に出つつ、意地と根性で食べ切った。


 完食すんのに、5分以上はかかったかも知んねぇ。
 その頃にはみんな、部屋の外の板の間に集まって、チーズのいい匂いを囲んでた。
 オレのホタテとブロッコリーも、「美味い、美味い」と食われてる。甘いモンの後だから、余計に美味いよな。
 つーか、まともなフォンデュは美味いよな?
「はい、花井。口直し」
 そう言って栄口が、チーズを絡めた食パンをくれた。さすが同士。万感の思いで「サンキュー」と受け取りながら、オレは周りを見回して――。
「あれ?」
 8人しかいないことに、ようやく気付いた。

 誰がいねーんだ? と、考えるまでもなかった。この部屋の主・三橋と、オレを苦しめた阿部がいねぇ。
「アイツらは?」
 オレの問いに、栄口が無言のまま、三橋の部屋の方を見た。
 その引き戸は、今はピタッと閉まってる。
「何やってんの……?」
「さあ?」
 オレの問いに、栄え口が遠い目をして答えた直後。ガラッと音を立てて、噂の阿部と三橋が出てきた。
「おい、お前ら――」
 何やってたんだ? まさかイジメとかじゃねーよな? と、そう訊こうとして、やめた。

『ふわっ、しゅ、シュークリームっ』
 薄闇で聞いた三橋の声が、頭の中によみがえる。
 つーか口元をチョコでベタベタにして、阿部に肩を抱かれ、ぽーっと赤い顔してる三橋が、イジメられてたなんてある訳ねぇ。

 阿部の気持ちは前から知ってた。
 キモいと思いつつ、いつまで経っても報われねぇのをこっそり不憫に思ってた。
 応援してたかはビミョーだけど、生ぬるい目で見守ってた。
 だから、もしかしてどうにかなったのかなー、という今の状況は、本来なら喜ばしい。
 喜ばしいんだが、喜べねーような気がするのは、2人が男同士だからだろうか?
 それとも……たった今食わされた阿部の極太フランクフルトが、オレの胃を攻撃してるからだろうか?

「……胃が痛ぇ」
 オレは腹を押さえながらぼそっと言った。でも誰も聞いてなかった。

  (終)

※hana様:フリリクへのご参加、ありがとうございました! 「闇鍋をするらーぜ、闇に乗じて三橋にキスする阿部……」とのリクエストでしたが、書きやすいようにアレンジOKとのことでしたので、お言葉に甘えて闇フォンデュにさせて頂きました。ドタバタで落ち着きない印象がぬぐえませんが、こんな感じでよろしければお持ち帰りください。
また、この辺をもうちょっと……などのご要望があれば、修正できますのでご遠慮なくお知らせください。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


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