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小説 3
あるキャプテンの素晴らしいクジ運・3
 10番目の西広が無事取り終えたのを待って、実食タイムになった。
「明かりくらい点けようぜ」
 誰かが言ったが、反対意見の方が多かった。
「いや、点けたら闇フォンデュになんねーだろ」
 とか。
「現実を見るのが怖いよ……」
 とか。
 それももっともだっつーことで、結局薄暗い部屋のまま食べることにした。

 暗い中だと食べなくてもバレねーんじゃねーかと思ったけど、田島も同じことを考えてたらしい。
「じゃあ、食べたモノ発表と持って来たヤツ自己申告な」
 そう言われりゃイヤだけど食べざるを得ねぇ。
「花井、いつもの」
 と要求され、「はあ!?」とか思ったが、習慣ってのは怖いよな。とてもそんな状況じゃねーのに。
「うまそう!」
 オレが言うと、全員が声を揃えて「うまそう!」と言った。

 けどそれで、いつもみてーに一斉にわいわいと……とはいかねーみてーだ。オレだって、バナナは当たりだと思いつつも箸が進まねぇ。
 薄暗い部屋の中、あちこちで「うっ」とか「ううー……」とか「これ……」とか聞こえて、それもコワイ。
 そんな中。
「はー、よかった。残り物には福があるんだね」
 オレの横で、西広が言った。
「食パンみたい、四角いし」

 それを聞いて、「ええっ!?」と声を上げたのは、栄口だ。
「オレのも食パンだと思うよ、四角いし……パンって、食パンとフランスパン1個ずつだよね?」
「おー、そうだぜ」
 田島が即答した。もしゃもしゃと早くも食べてるらしい。躊躇なしか? と、思ったら。
「オレのはリンゴ。うっめーっ!」
 リンゴか、リンゴなら確かに形で分かるかも知んねぇ。阿部のバナナと一緒、だよ、な。
「リンゴはオレ。で、オレはフランスパン。……よかった」
 沖がホッとしたように言った。暗くてよく見えねーけど、多分緩んだ顔してんだろうな。

 逆に、栄口はビビってる。
「ええっ、じゃあ、オレのは何……?」
「多分、オレが持って来た物だから大丈夫だよ。変な味、しないと思うよ」
 落ち着いた声で西広が言った。そういう西広はホントに食パンだったらしく、余裕で食べ終えてしまってる。
 じゃあ、栄口は――と思ってたら、「えいっ」と口に入れた栄口が、数回咀嚼してぼそりと訊いた。
「厚、揚げ……?」

 「うん」とキッパリうなずいてる西広、黙り込む栄口。
 厚揚げはチーズフォンデュにもビミョーだぞ、とツッコミたかったけど我慢した。味はともかく食感はどうなんだろーな? 
 栄口に同情しつつ、自分の皿をじっと見る。
 皿の上では太くて長いモノが、少しカーブした状態でオレを待ってる。
 これ阿部のバナナ、だよな?

 ちらっと阿部の方を見ると、よく見えねーけど三橋の側にいるみてーだ。
 「タコ、焼きっ」と叫ぶ三橋に、「食えねーなら口移しで食ってやろうか」とか言ってんのが聞こえてゾッとする。
 
「オレだよ、タコ焼きは。自分で全部食えよ、三橋」
 そう言ったのは泉だ。普段の倍くらいに低い声で、不機嫌そうにさらに言った。
「タコ焼きなんかマシだぜ。誰だ、ハンバーグ入れたバカは?」
「えっ、ハンバーグ?」
 オレは咄嗟に巣山の方を見た。
 薄暗闇でよく分かんねーけど、えっ、でも巣山じゃねーよな? だってハンバーグとおにぎりなら、おにぎり入れるだろ、普通?

 しかし、巣山は普通じゃなかったらしい。
「ハンバーグはオレだ。けど、いーじゃねーか、お前、ハンバーグ苦手じゃねーだろ? オレなんかキウイだぞ?」
 って。意味の分かんねぇ文句を言ってる。そういや果物が苦手だったか?
 つーか、ハンバーグなんか入れてっから、バチが当たったんじゃ……と、ちらっと思ったけど黙っとく。

 それに対して、「キウイいーじゃん!」と言い返したのは水谷だ。
「オレなんかブロッコリーだよ? 有り得ない!」
「えっ、ゴメン……」
 ブロッコリーは良心的な方だと思ったけどな。でもブロッコリー嫌いの水谷に「有り得ない」とか言われると、あんま堂々と「当たりだろ」とは言いにくい。
 そもそも、チーズフォンデュ用に用意したのを、チョコフォンデュに使おうって言うのが間違ってんだ。
 けどそれを言うと、こっちを当てたのはオレだから――そう思うと、誰にも文句も言えなくなる。

「いや、でも、ホタテよりマシだよな?」
 ボソッと反論すると、「いーじゃん、ホタテチョコー!」と田島が笑った。
「いやー、闇フォンデュ、うめぇしオモシレーな!」
 陽気な呼びかけに、うんうんとうなずいてんのは沖と西広くらいだろう。栄口は口ん中いっぱいにしたまま、強張った顔で咀嚼中。

「何だコレ、甘ぇ」
 そう言ったのは阿部だけど、ただでさえ暗い上、こっちに背中向けちまっててよく見えねぇ。つーかアイツ、三橋しか見てねーな。
「阿部は何だった?」
 オレの問いに答えがあったのは、たっぷり十数秒数えてから。
「ふあっ、しゅ、シュークリームっ」

「は? え?」
 なんで今、三橋がそれを? ――と、疑問に思ったけど言えなかった。

(続く)

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あきゅろす。
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