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小説 3
あるキャプテンの素晴らしいクジ運・1 (高1・花井視点)
――フォンデュパーティやろうぜ――

 田島から一斉メールで連絡が来たのは、期末が終わった後の週末だった。
――会場は三橋んちで、昼メシ兼ねて12時から。参加者は加熱済みの材料を、それぞれ2つずつ用意して来ること――
 メールにはそう書かれてた。
 うしし、と笑ってる田島と三橋の姿が目に浮かぶ。
 何か起こりそうなイヤな予感が正直するが、野放しにして後悔するより、行って見張って後悔する方がいい。多分。
 少なくとも、心配し過ぎて胃が痛くなることはないハズだ。

 ちらっと時計を見ると、そろそろ10時。
 フォンデュの材料って……何だ? パンはあっちで用意してくれるっつーから、それ以外か。
「ちょっとー」
 オレはリビングに行き、母親に声を掛けた。
「三橋んちに行ってくんだけど。フォンデュパーティって、何持ってけばいーの?」
「あらぁ、チーズフォンデュかしら。今の季節にピッタリよねぇ」
 母親はそう言うと、自分が行く訳でもねーのに、ウキウキと冷蔵庫を覗き始めた。いや、まあ、有難ぇけどな。

「何がいーかしらね? みんなと被らないで、あっと驚くようなものがいーわよね」
 って。
「いや、驚かさねーでいーから、無難なのにしてよ」
 母親にツッコミつつ、早くもイヤな予感に震えた。
 まさかとは思うけど……みんな、ウケ狙いで奇抜なモノ持ってきたりしねーよな?
 チーズに合わねぇ食材って、逆にあんま思いつかねーけど。でも、田島とか水谷とか、怪しそうだよなぁとちょっと思った。


 双子の妹も交えて、あーでもないこーでもないと協議した結果、持って行くのは冷凍ホタテとゆでたブロッコリーの2つに決まった。
 女の意見が入っただけあって、まあ無難だ。……うるさかったけど。
 他の連中は何を用意すんのかな? 田島からのメールには、「他のメンバーと相談厳禁」とか書かれてた。
 別にそんなの、相談したっていいだろうとは思うけど……シャレになんねぇペナルティとか用意されてる気がして、逆らう気にはなんなかった。

 三橋んちに着くと、ちょうど他のメンバーも集まりかけたとこだった。
 結局、全員参加らしい。
「何持って来た?」
 巣山に訊くと、「まあ無難にな」と言いながら見せてくれたのは、自作のミニハンバーグに、1個1個が小さい丸おにぎり。
 確かに無難だが、両方手作りってとこがスゲェ。さすが料理男子。
 対する、料理なんかしなさそうな阿部は――。
「オレのフランクフルトと、オレのバナナだ」
 胸を張ってそう言った。ニヤニヤ笑いがスゲー不気味だ。まあ、誰に食べさせてーのかは、当人以外にはモロバレだけど。

「……いや、バナナは合わなくねぇ?」
 オレに言えるのは、そんだけだった。

 そんな中――「はああ!? ウソでしょー!?」と騒がしく奇声を上げたのは、水谷と栄口だ。
「フォンデュパーティって言ったら、チョコフォンデュでしょ!?」
 って。
「はああ!? んなことねーだろ!?」
「えーっ!?」
 広いリビングが、一気に騒がしさに包まれる。
 まあ確かに、「フォンデュパーティ」ってだけじゃ、何のフォンデュなんか分かんねぇよな。1個間違うと大違いだ。
 どっちか迷ったら田島に連絡すりゃいーのに……と思いつつ、そういやオレだって、チーズフォンデュだと思い込んでて、田島に確認取ってねぇ。
 
 他にも沖が、チョコフォンデュだと思い込んでたらしい。青い顔して震えてた。
「で、お前ら、何用意して来たんだよ?」
 恐る恐る尋ねると――。

「はーい、そこまで!」

 田島の声が響き渡った。
 2階で準備をして来たらしい、三橋がドタドタと階段を降りて来て、上ずった声で田島に告げる。
「準備、できた、よっ」
「よおーし!」
 三橋の声にうなずき、田島がいい笑顔で言った。
「では、お待たせしましたー、ただ今より、闇フォンデュパーティーを始めまーす」

 闇フォンデュ、と聞いて、さっきの3人のが頭をよぎったが……まあ、そんな爆弾でもないだろう。
 何を持って来たかは聞けなかったけど、チョコに合うっつったらクッキー系とか果物系だろうし。阿部のバナナと同様、ビミョーかなと思うけど食えなくはない。多分。
 みんなも同様に思ったんだろう。一瞬の間の後、「おおー」と言いながら拍手した。
 その拍手を「はーい、はーい」と両手で抑え、田島がオレの方を見た。

「さあ、では2階に上がる前に、我らがキャプテンに大事なことを決めて貰いましょー! 花井、『中』か『外』かを決めてくれ!」

 田島の言葉に、みんなが一斉にオレの方を振り向く。
「はあ!? 何? オレ?」
 いきなり話を振られて、勿論オレは驚いた。『中』か『外』か決めろって、意味分かんねぇし!
「何の『中』と『外』だよ!?」
 オレの当然の疑問に、田島は「えー、それ訊くかぁ?」と文句を言った。いや、訊くだろ、普通?
 つーか、何か、イヤな予感がすんのは気のせいか?

 はー、とわざとらしいため息の後、田島は「仕方ねぇなぁ」と言ってヒントをくれた。
「三橋の部屋の『中』と『外』! もうこれ以上のヒントはねーぜ!」

 三橋の部屋の、『中』と『外』? ……選ぶ意味が分かんねぇんだけど。会場か? 『外』つったら、あの広い廊下? そう考えると、『中』の方が暖かそうだよ、な?
 オレはみんなの顔を、ぐるっと見回した。
「オレは、三橋ん中に入りてーけどな」
 阿部に横でぼそりと言われて、一瞬「外だ!」って言いたくなっちまったけど、いや、『中』だろう。

「『中』だ」
 オレがそう言うと、田島がニヤッと笑った。
「よぉーし、もう変更はきかねーぞ! みんなもイイなっ?」

 田島の笑みに、スゲー不安になったけど……もう後には引けなかった。

(続く)

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