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小説 3
光巡る・10 (完結)
 今まで陰陽師やって来て、修業期間や見習い期間含めたら結構な年数になるんだけど――こんなデカくて強い陰鬼は初めてだった。
 そして同じく、陰鬼の調伏がこんなあっさりだったのも初めてだった。
 金の光の刀を振るうと、一太刀ごとにあっけなく陰の気が斬れ、たちまち闇に還って消えた。

 陰鬼が消えたと同時に、ヤツのテリトリーも消えて元の世界に戻って来た。
 ゆっくりと刀印を左手に収め、はーっと息を吐く。
 真っ赤な夕焼けが西の空を朱く染めてて、薄暗いけどまだ夜じゃない。
 ヘッドライトを点けた車が、すぐ目の前の道路を走る。自転車も、歩行者も、それなりにいる学生街。
 人々の雑多な気配が一気に戻る、と同時に、三橋の声が聞こえて来た。
「阿部君! 阿部君、どこっ!?」

 もしかして、ずっとオレを呼んでた?
 三橋の目には、オレが突然消えたようにでも見えたんだろうか? だったら、心配させたよな。
 振り向いて、右手を軽く上げて見せると、三橋は「阿部君っ!」と叫びながら階段を駆け下りて来た。そのままドシンと勢いよく飛び付いてくる。
「阿部、君、敵はっ?」
 緊張した声で訊きながら、オレを庇うように前に立ち、キョロキョロと周りを見回す三橋。
 ふわふわの髪が逆立ってて、猫みてーで可愛い。
 こいつなりにオレを守ってくれようとしてんのかな? その健気なところもスゲー可愛い。

「もういねーよ。やっつけた。お前こそ、ケガは?」
 オレが落ち着いた声でそう言うと、三橋は大きな目を見開いて、「ホント?」とこっちを振り向いた。
 その左の二の腕は、シャツがぱっくりと裂けて血の染みができてる。やっぱガラスで切ってたか?
 血は止まってるみてーだけど……。
「ごめんな」
 オレは小さく謝って、右手で血止めの印を結んだ。
 おまじない程度の効果しかねーけど、痛みはマシになるハズだ。

「うお、阿部君!」
 三橋がビックリしたように声を上げた。呪印が効いたのかと思ったけど――。
「右手、う、動いてる、ねっ」
 嬉しそうにそう言って、三橋はオレの右手をぎゅっと掴んだ。
 無防備に顔を見上げられ、ふにゃっと笑われてドキッとする。

 陰鬼を打ち倒したと同時に、手首にあったヤツの痕もキレイに消えた。もう、光の手に握られたって、じゅうっと熱くはならねーし、光を感じることもねぇ。
 けど、それでも温かいコトに変わりはなくて、好きで、嬉しくて抱きしめたくなる。
「お前のお蔭だ。あんがとな」
 右手で胸に抱き寄せると、三橋が「う、お」と言いながら真っ赤になった。
 キスして―な、と思ったけど、ここは三橋のマンションの外で……。

「ああっ! 三橋君、何があったのっ!?」
 大家さんだっつーオバサンの声に、たちまち現実に引き戻された。

 確かに派手にやられたと思う。ガシャーン、ってデカい音してたしな。
 そんで、ナニゴトかと思って見てみたら、街路樹が突き刺さってる訳だし。そりゃ驚くだろう。
 何があったの、と訊かれても、ホントのことは答えようがねーし。
「さ、さあ、部屋にいた、ので」
 くらいしか言いようがねぇ。
「竜巻じゃないんですか?」
 とか。ちょっと苦しいけど、オレも助け舟を出した。

 その甲斐あってか、三橋がわざとやった訳じゃねぇっつーのは分かって貰えたみてーだった。
 まあな、人間ワザには見えねーよな。
 ガラス代を大家さんと折半することにはなったらしいけど、他は特に問題にされることもなく、街路樹の弁償とか、撤去費用がどうとか、そういうことも言われなかったみてーだ。
 ただ……すぐには補修はムリらしい。と、いうことで。
「物騒だし、戸締りできないと困るでしょう?」
 やんわりとそう言われ、引っ越しすることを勧められた。

「へ、うえっ、そ、そんな……」
 三橋は困ってキョドリまくってた。
 そりゃそうだよな、こんな中途半端な時期に放り出されたって、すぐにいい部屋が見付かるとも限んねーし。
 新しく借りるなら、敷金も礼金も、引っ越し費用だってかかる。
 けど、オレは敢えて、その大家との話には口を出してやんなかった。ちょうどいいと思ったからだ。

「うちに来いよ。部屋、余ってるし」
 大家のオバサンが去った後。ニカッと笑ってそう言ってやると、三橋はキラキラした目でオレを見て。
「い、い、いいの?」
 と、縋るように訊いた。
 勿論、ダメだなんて言うハズがなかった。
「当たり前だろ、今まで世話して貰ったんだから、今度はオレが返す番だ」
 爽やかに言い切って、優しく肩を抱く。
 ちゅっと軽くキスしてやると、三橋もそれ以上、「いいの?」とは訊かなかった。


 引っ越しは、夜のうちにやり遂げた。
 何しろ、まだ三橋んちには街路樹が突っ込んだままだし。ガラス片も飛び散ってっから、とても寝られる状態じゃなかった。
 それに、荷物を全部オレんちに運ぶだけなんだから、大して時間もかかんなかった。
 移動の呪符を貼って印を結び、1回1回に呪文を唱えていくだけだ。
「送!」
 鋭く声を上げると、ひゅんっと音もなく目の前の家具が消える。

「す、すごい、ま、魔法みたいだ!」
 三橋ははしゃいだ声をあげて、さらにキラキラの目でオレを見た。
 まあ、人間様は電車で移動になるんだけど……それでも、オレんちに来るまで、そのキラキラは持続した。
 一般の不動産屋から借りるんじゃなくて、陰陽師用に本部から紹介された物件だ。
 そんな広くはねーと思うけど、確かに三橋のワンルームの4倍くらいの広さはあるか。
「うお、広い! あ、新しい!」
 って。ガキみてーにキョロキョロしてる様子も、スゲー可愛い。

 そのまま、無邪気な様子を堪能してても良かったけど……。

「三橋」
 後ろから抱き寄せ、両手を使って抱き締めると、何が言いたいか分かったのか、三橋の顔が赤くなった。
 自由になった右手を使って、愛おしい光の青年を抱き上げる。
「じゃ、ベッドルームの見学からな」
 そう言って横抱きにして歩き出すと、三橋がオレの右腕に、そっと自分の手を這わせた。
 可愛くて、ふふっと笑える。
 もう、そうされても熱いくらいの光は、オレの手首に巡らねぇけど。目を閉じるとやっぱ三橋は、眩しいくらいに光ってる。
 唇を重ね、舌を絡ませると、甘い唾液と共に金の光が、オレの方に移る気がした。体を奥深く繋げると、もっと光が得られんのを知ってる。
 早く包まれ、温まりてぇ。

 ベッドに寝かせ、上から覆いかぶさると、三橋が真っ赤な顔でオレを見上げた。
「好きだ」
 囁くと、「オレも」って言われて、嬉しくて頬が緩む。
 これからもずっと一緒だな。そう思うと、じわっと胸が熱くなった。その熱を三橋と分け合うまで、あと少し。
 白い肌を味わいながら、オレは自由になった両手で、光の体を抱き締めた。

   (完)

※みっく様:改めまして80万打キリ番Get、おめでとうございました。「逃亡者阿部×それを匿う三橋」、阿部の身の上設定を色々迷いましたが、敵が人間じゃない方が戦いやすいだろうということで、陰陽師パロで書かせて頂きました。らぶらぶで書かせて頂きましたが、いかがだったでしょうか? 「ここはこんな感じで」などもしご要望があれば、訂正しますのでおっしゃってください。ご本人様に限り、お持ち帰りいただいてOKです。リクありがとうございました。これからもよろしくお願いします。 

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あきゅろす。
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