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小説 3
光巡る・2 (R−18になる?)
 あの日以来、夜は怖くて眠れねぇ。
 だからいつも、三橋が大学行ってる昼間にベッドで寝て、帰る頃に起きる。昼夜逆転の生活だ。
 夜が……っつーか闇が怖ぇなんて、情けなくて三橋以外には知られたくねぇ。
 けど、ろくに動かねぇ右手を見るたび、そこにくっきりと黒く残る手形を見るたび、言いようのねぇ恐怖がよみがえる。
 こんな状態、ハッキリ言って陰陽師失格だ。
 克服するには、あの陰鬼を自分の手で葬らねーと。腕が回復してもトラウマだけ残るとか、マジ有り得ねーし冗談じゃなかった。

 豆電球1つだけにした薄暗い部屋の中、目を閉じるとやっぱ、三橋だけ明るい。
 闇を照らす光だ。
 コイツが側にいれば、何も怖くねぇと思う。
 裸で抱き合うと、ますます温けぇ。光を直接肌に貰う。
 愛しくてたまんなくて抱いてるけど、肉欲とかそんだけじゃなくて、1回1回がオレにとっては神聖な儀式だ。
 光に体を差し入れて、光と一つになる。スゲー気持ちイイ。

「ああっ、あべ君っ……!」
 三橋が微かな善がり声を上げて、オレの背中にしがみ付く。
 キスして、さらに深く繋がると、光る体が大きくしなった。
「んー、ああっ」
 抑え切れずに声を漏らす、気持ちよさそうにしてんのを見るのが好きだ。
 壁薄いんだろ、っていうのに。我慢して我慢して、そんでも我慢できなくて喘いで。そう思うとたまんねぇ。
 ぞくぞくする。
 一方通行じゃねーなって思う。

 喘ぎっぱなしの唇を塞いで、ガクガクと激しく、思いのまま突き上げる。
 繋がってる間は、何でか右手も少し具合がいい気がする。
 ずっとこのままでいてもイイ。
 安っぽいパイプベッドがギシギシ鳴るのを、うるせーなと思いつつもやめらんねぇ。
 もっと深く。もっと奥まで。この光る体ん中に触っていてぇと強く願う。

 陰陽師仲間がこれを見たら、「お前、その子を利用してんじゃねーの?」とか言うかな?
 そんな中傷を軽く吹っ飛ばして、「愛し合ってんだよ」って堂々と言い放つためにも、さっさと回復しねーとな。

 直前で引き抜いた陰茎から、精子がほとばしって三橋を汚す。
 それを濡れタオルでぬぐう頃には、三橋は疲れ切って眠りに落ちる。
 豆電球を残しただけの薄暗い部屋の中、怯えずに夜を過ごせるのは三橋が側にいるからだ。
 セックスした後は、自分にもわずかに光が移ってる気がする。
 また一晩越えられる。
 繋がってる間、いくらか調子の良かった右手首は、やがてゆっくりと黒く凍った。
 ぐーぱーと握ったり開いたりを続けてるけど、それも緩慢にしかできねーで、イライラする。

 また印を結べるようになんのかな?
 ふっと不安が胸をよぎり、オレはため息をつきながら三橋を見た。
 疲れ果ててぐっすりと眠ってる、白い頬に触れるだけで心の闇も薄れてく。
「お休み、三橋」
 囁いて、薄く開いた唇に軽くキスをすると、起きてんのか夢見てんのか、三橋がふにゃっと笑みを浮かべた。


 長い長い夜をうずくまって過ごし、やがて夜が明ければ、三橋が目を覚ます。
「おはよ」
 寝癖のついた髪を撫でながら、ちゅっと軽く唇を奪うと、面白いように真っ赤になった。
 もう1ヶ月もこうしてるってのに、まだ照れがあるみてーだ。
 可愛くて、ふふっと笑える。

 右手が動かなくても、パン焼いて湯を沸かすくらいならできるから、三橋が着替えてる内に準備する。
 マーガリン塗ってくれんのは三橋の役目だ。
 なんか、何もかも世話になってるよな、と思う。
 昼も、学食とかで食べてぇだろうに、わざわざオレにメシ食わすために帰ってくれる。
「大学、近いからいい、んだ。それにオレ、1人でよそで食べるより、あ、阿部君と、家で食べ、たい」
 ふにゃっと笑われてそんなこと言われると、愛おしくてなんつーか、胸がいっぱいになる。
 腕の中に閉じ込めてぇ。

 けど、そんな訳にもいかなくて。
「行って来、ます」
 照れくさそうに部屋の主が出て行くのを、「おー」と左手振って見送る毎日を送ってる。
 光が去った部屋の中は、朝だってのに、途端に暗く感じるから不思議だ。
 扉がパタンと閉まって間もなく、外からカッと光が差して、三橋が封印したんだなって知れた。
 簡単な印と呪文を教えて、毎日部屋を出る時にやって貰ってるおまじないだ。

 正直、素人のにわか術だから、封印的な効果は薄い。
 けどやっぱ三橋の本性が光だから、闇の物に対してはスゲー効くんじゃねーかと思ってる。
 今は……そんだけでいい。まだオレの居場所は見つかってねーハズだし。
 これでしばらくは、安心して眠れる。

 ふあ、と大きな欠伸をして、オレはのっそりと1つしかねぇベッドに上がった。
 さっきまで三橋が眠ってたベッドだ。寝る前には深く愛し合った場所。まだ、三橋の匂いが残ってる。
 オレは1つ深呼吸して、三橋の残り香を残光と共に吸い込んだ。
 そして、ゆっくりと意識を手放した。

(続く)

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