小説 3
続・禁断の関係・2 (にょた)
ドライブの最中に、渋滞に捕まった。
ちっ、と小さな舌打ちが聞こえて、ドキッとする。
「ったく、東京は」
運転席に座る彼はすごく大きなため息をついて、ギアを動かし、サイドブレーキをギギッと引いた。
そして……助手席の私に腕を伸ばしてきた。
グイッと引き寄せられて、シートベルトが少し伸びる。一瞬、触れるだけの軽いキス。
えっ、ここ、周りは車だらけなのに。
前後左右の車からの見えない視線を想像して、カッと顔が熱くなる。
キスとか見られても平気なの?
隣を見上げると、彼は格好イイ顔を私に向けて、ニヤッと意地悪そうに笑ってた。そして言った。
「パンツでも脱げよ」
「えっ?」
勿論、聞き返した。だって……パンツって……えっ!?
横の窓と前と彼とに、キョドキョドと視線を揺らす。だって、どうすればいいのか分からなかった。
そんな私にふふっと笑って、彼がもう一度言った。
「渋滞、イラつくし暇だろ? だからパンツくらい脱げって」
渋滞にイラつくのは分かるけど……何が「だから」そう言われるのか分からない。
答えられないでいたら、彼の顔から笑みがふっと消えた。
視線を私から逸らし、サイドブレーキを起こしてギアを触って、車を少しだけ前に進める。
5メートルも行かない内に、再び車が音もなく停まった。
ギギッとサイドブレーキの音が響く。
「脱げねーの?」
ガッカリしたように言われたら、どうしても「無理」とは言えなくて。呆れられたくなくて、期待に応えたくて、「や、やる」としか言えなかった。
ミニスカートの膝元を、ぎくしゃくと見下ろす。
ピンクベージュのフレアスカートをめくって、そっと中に手を入れる。
自分でもバカだと思う。でも、ガッカリされたくない。いつも自分を見てて欲しい。
私は素早くショーツを引き下げ、右足を抜いた。
「ぬ、脱ぎまし、た」
震える声で申告すると、彼が嬉しそうにははっと笑った。
「マジで脱いだのか。お前、エロいな」
自分で脱げって言ったくせに……「エロい」って言うの、イジワル、だ。
「だ、だって、お兄ちゃんが」
もじもじとヒザを擦り合わせてると、右のヒザ頭に温かい手がそっと置かれた。
「オレが? なに?」
やわやわとヒザを撫でる手が、内股に自然に滑り込む。
脚を触られただけなのに、ぴくっと全身が跳ねてしまうの、浅ましくて恥ずかしい。
「お兄ちゃんが、脱げ、って言ったんで、しょ?」
恨みがましく訴えると、彼はふっと鼻で笑って、温かい手を私から引いた。
えっ、と思って真横を見ると、また彼は前を向いていて。今私に触れてた手で、ギアをカクンと操作していた。
私だけに集中しない彼が、ちょっと遠い。
ドライブ中だから当たり前なのに寂しい。渋滞なんて、なくなればいいのに。
なかなか進まない車列の中、時折暇つぶしのように触られ、言葉でからかわれて――私はショーツをはかせて貰えないまま、助手席に座っていた。
渋滞から抜けたのは、信号を2つ過ぎてからだろうか。
交差点を曲がって、2車線道路に入った途端、さっきまでの渋滞がウソのようにスイスイと動き出した。
と、しばらくしてから彼がウィンカーをつけた。
カッチカッチ響く音を聞きながら窓の外を見ると、大型ディスカウントショップの看板が目に入る。
「買い、物?」
私が尋ねると、彼は短く「おー」と答えて、車を駐車場に入れた。
車が停まった後、慌ててシートベルトを外し、足元のショーツに手を伸ばす。
早くはかないと。と、そう思って。
だけど。
「こら」
彼が、酷薄な笑みを浮かべて軽く叱った。
「誰がはいてイイつった?」
そして私の足元に手を伸ばし、くるぶしに引っかかっていたショーツを強引に引き抜いた。
「やっ」
とっさにスカートを押さえ、小さく悲鳴を上げる。でも彼はまるで構わず、奪ったショーツを後部座席にぽいと放った。
反論する間も、抵抗する間もなかった。
呆然とする私を置いて、さっさと車を出て行く彼。
バン、と強く閉められるドア。
私はミニスカートで、その下は何もはいていなくて。なのに。
助手席のドアが、外側から開けられた。
「ほら、買い物行くぞ」
彼がそう言って、ニヤッと笑う。
「イヤ」だなんて言えなかった。ガッカリしたようにため息をつかれたくなかったし、呆れられたり……突き放されたりしたくなかった。
自分でもバカだと思う。
ミニスカにノーパンで買い物に出るなんて、バカじゃなきゃできない。
震える足を動かして助手席から外に出ると、彼が乱暴にドアを閉めた。
バン、と音がして風が舞い、スカートの中を通り抜ける。
「ひぅ」
息を呑んでスカートを押さえた私を、はははっと笑って。
彼は私を抱き寄せて、「行こうぜ」と低く囁いた。
(続く)
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